医療情報室レポート 
 

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2001年2月23日  
福岡市医師会医療情報室  
TEL852-1501・FAX852-1510 

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特集:医療とIT革命 −その2−
「IT基本法」「e-Japan戦略」など、ようやく我が国の国家的プロジェクトとして動き出したIT革命ですが、近隣諸外国に比べるとそのスタートから既に遅れ、推進のための高速通信網などの環境整備もこれからという状況です。 医療の分野においてもITを推進するためには超えなければならないハードル、問題点が残されており、これらを克服しITを身近なものとして大多数の方が利用するには少し時間がかかりそうです。 今回は諸外国のIT推進の状況や、これから医療の分野においてIT化が推進される中で検討されるべき課題・問題点などを特集します。


諸外国のIT推進の状況

世界各国の国家戦略
・アメリカ:National Information Infrastructure(1993年)
・ヨーロッパ:e-Europe(1999年)
・イギリス:Our Information Age(1998年)
・韓国:Cyber Korea(1999年)
※日本:e-Japan戦略(2001年)

世界のインターネット普及率
・北米・北欧諸国の普及率が高く、アメリカのインターネット利用人口は1億人を超える。(右図は平成12年通信白書より)

特徴ある国・地域
・北欧諸国
インターネット普及率と共にモバイル通信(携帯電話など)の普及率も高く、各国が50%を超える。
ノキア・エリクソンなど世界有数のモバイル端末メーカーがあり、フィンランドは固定電話より携帯電話の利用料の方が安い。 ・韓国
高速インターネットの普及が著しく、(※1)ADSLやCATV接続サービス契約者数は1年で10倍以上に伸びている。
またソウルには「PC房(バン)」という高速インターネットに接続されたパソコンを時間単位で貸す店が街のあちこちにあり、インターネット利用を推進させている。 ・シンガポール
現在130以上の行政サービスがオンライン化され、インターネットを利用して行政サービスを利用できる。
また国内の小・中学校全てに高速ネットが接続されるなど公共施設での充実が著しい。
※日本
携帯電話、(※2)PHSなどモバイル通信の普及は世界的にも高く、契約数は5千万件を超える。
現在は高い通信費、速度が遅い回線が指摘されているが、NTTは昨年12月からADSLサービスを開始し、都市部から順次拡大する予定。
IT化に向けてのハードル

○情報の規格化・標準化ネットワークを介して情報をやりとりする場合、相互の間に約束事(規格化・標準化)を決める必要があります。 医療の分野においては、医師個人の間で同様な疾患に対する病名等がまちまちであったり、複雑な表現方法を用いることが多いため、チーム医療を円滑に行うためには一定の基準(規格)が必要です。現在、福岡県内4大学病院を含む福岡県五病院会では検査データの基準値について県内共有可能な基準範囲を利用し検査の標準化を図っており、本年4月からは福岡市医師会臨床検査センターも採用する予定です。また、福岡市医師会消化管検診委員会には画像の電子化基準があり、医療情報の規格化・標準化も進んでいます。
今後、電子カルテシステムを利用した医療施設間連携推進のための患者情報共有システムの構築には不可欠といえます。 ○環境の整備 画像や音楽、動画など現在のインターネットでは容量の大きな情報が提供されており、通常の電話回線を用いてダウンロードするとかなりの時間を要するものもあります。高速の通信を可能とする手段として、ADSLやCATV、光ファイバー網の整備が必要といわれていますが、日本ではまだ普及の緒についたばかりです。 医療の分野でもCTやMRI撮影画像や病理組織画像等のデータを送受信する遠隔画像診断システムが行われるなど画像データのやりとりが今後進展することが予想され、医療情報の共有化を効率的に実施する上では早急な整備が望まれます。尚、高速通信の普及のためには通信費が安価であることも必要です。 ○セキュリティ許可されていない第三者からコンピュータ内のデータや各種ネットワーク資源などを守るため、1人1人のユーザーに名前(ユーザー名)をつけ、本人しか知らない文字列をパスワードとしてユーザー名と対応づけて記録しておき、ネットワークやデータファイルへのアクセスを許可する前に、ユーザー名とパスワードを入力させ、アクセスしている人物が登録された人物と一致するかどうかを検査する方法や、イントラネットによるセキュリティの確保が代表的です。
医療情報は患者さんの個人情報でもあり、セキュリティの高いネットワークの構築が必要です。 ○いわゆる情報弱者への対応ネットワークによる情報通信手段は、必ずしも対象者全員の参加が得られるとは限りません。例えば医師会が事業として行う際にも、現在の方法を並行して行いながら、ネットワークの魅力を高め、参加するに足るものとして充実させていく必要があります。 また、接続(参加)が容易であること、サポート体制の整備が必要です。
IT推進の基盤となる現在のフィールド


○福岡市医師会イントラネットサービス福岡市医師会イントラネットは会員間の情報交換の場として既に機能できるフィールドであり、医療情報マップによる会員医療機関情報の掲載をはじめ、24時間救急診療実施機関(救急病院協会)案内などの地域医療情報を掲載しています。また、各区医師会イントラネットホームページでは、病院当直医情報や訪問診療・往診実施医療機関などの在宅医療関連情報、救急応需体制、感染症情報や校医名簿、介護保険関連情報など様々な地域医療関連情報が掲載されています。 その他にも、毎週週報にてお知らせしている各種通知、学術講演会の予定、医師会の行事予定や活動報告などの情報が閲覧できます。ITを身近に感じるためにも、是非福岡市医師会イントラネットページにアクセスして下さい。    ★福岡市医師会イントラネットサービスは会員専用のため、閲覧のためにはID、パスワードの取得が必要となります。
      福岡市医師会電算課(TEL 852−1505)に登録をお申し込み下さい。
○健康保険証のカード化平成13年4月以降順次、健康保険被保険者証がカード化され1人1枚所持することとなりました。近い将来、ICカード化され患者個人情報や健康に関するデータが記録されるようになれば、医療情報の効率化は急速に進展すると考えられます。○携帯電話(iモード等)の普及「iモード」に代表される携帯電話によるインターネット接続サービスは、電子メールの送受信、銀行振り込み、コンサートチケットの予約、ニュースや地図情報の閲覧、オンラインゲームのプレイなど、現在利用できるサービスが充実しています。一番近くにあるITツールといえます。訪問診療など在宅医療における用途が期待できます。
用語説明
※1 ADSL: 電話局から各家庭や事業所まで引かれている銅線の加入者電話回線を利用して、電話局と 加入者宅を結ぶ加入者線の両端にADSLモデムという装置を取り付け、このモデム間で現在のアナログ電話回線よりも高い部分の周波数帯域を使って高速なデジタルデータ通信を可能にする。
  CATV: ケーブルTVの略語。電波を用いた地上波TV放送ではなく、同軸ケーブルによって接続した限定地域に対して、多様なサービスを提供するTV放送システム。局から各家庭までは光ファイバ/同軸ケーブルが敷設されているが、ケーブルモデムという装置を使うと、局と各家庭間で高速なデータ通信を行なうことができる。
※2 PHS: Personal Handyphone Systemの略。1つの無線基地からの通信エリアは150m〜500mと狭い ため、自動車などの高速移動中の利用には向かない。現在は携帯電話よりも高速なデータ伝送速度を生かし、ノート型パソコンとの組み合わせによるモバイル機器としての利用が 盛ん。
※3 ダウンロード:インターネットのホストコンピュータなどから、データを取り出す操作。

<医療情報室の目>
★医療にITが浸透するか
  情報技術の進歩は目覚ましいものがあり、我が国でもわずかここ数年で飛躍的に浸透・普及しました。 他の産業界に比べ、医療の分野はその進展が遅れているといわれていますが、可能な部分(レセコンなど)は各施設で行われていました。また、進展がなかったそれなりの“理由”もあるはずです。医療情報は複雑で多岐にわたり、情報技術と同様飛躍的に進歩する医療技術の中にあって、規格化されたものを創り出すには強力なリーダーシップが必要です。しかもそのリーダーシップはもちろん国(厚生労働省)ではなく我々医療界にいる者でなければなりません。今回、日医が公表したオンラインレセプトコンピュータシステム(ORCA)により、将来電子カルテ機能を持ち合わせ会員医療機関が診療情報を共有することを目指すことは大いに期待されます。(福岡市医師会は会員の先生方がORCA(仮称)を簡単に利用していただけるよう基盤整備にとりかかっております)
  加えて、医療にITが浸透するか否かは、いかに利用しやすいか、どれだけのメリットがあるかが目に見えて判ることが必要と考えます。医療連携における情報提供の効率化などのほか、医業経営におけるメリットも考えられます。
  福岡市医師会も地域医療・福祉対策委員会と医療情報委員会より地域医療情報ネットワークへの取り組みについて答申を受け、その具体的実践に向け動き出しています。会員の先生方のご支援・ご協力をお願いいたします。

 ※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
   (事務局担当 百冨 TEL852-1501 FAX852-1510)
 

担当理事 江 頭 啓 介・入 江  尚


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