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特集:危機管理対策 その2
−雪印事件から学ぶ医療機関の対策−
乳製品のトップブランドである雪印乳業で起きた食中毒事件は、発症者が1万人を 超える過去最大の食中毒事件として社会に大きな衝撃を与えました。最近は三菱自動車工業の永年にわたるクレーム隠ぺい工作問題も発生するなど、企
業の危機管理意識が問題視されています。医療界にあっても、医療事故や院内感染が相次いで発生している今日、危機管理対 策について十分に意識していかなければならない時期にきています。今回は世間を震撼させた雪印集団食中毒事件を医療機関に照らし合わせ、危機管理
対策における問題点、対応策などについて検討しました。
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雪印では...
−持っていた認識とあまりにもかけ離れた事実−
・乳製品のトップブランドであり、業界のリーディングカンパニーである社会的信頼度の高い企業で起きた事件
・日用食品で消費量の多い牛乳に黄色ブドウ球菌が混入されていたこと
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医療機関では?
・ 日本社会の医療の中で「安全」を議論することそれ自体がその医療が「安全」に問題がある「危険」で「不安」な領域なのだということを
社会に公表することになるという愚かな思いこみが社会にも当事者にもある。
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対応策は?
・ 頻度の極めて低い危険への対策を、たとえ、そのすべての場合において空振りに終わったとしても、なお十分に執り続けることが必要であり、
世間や周囲はそれを支援し続けなければならない。「無駄」なことをした、という批判ほど、無責任な批判はないといえる。
安全の問題で、最も重要なことの一つは、対策が当たり前になり、人々がそのことに注意を払わなくなり「無駄」が繰り返されている間に、そ
れが文字通り「無駄」なこととして放置されるに至ることである。あの時も「無駄」だったではないか。「無駄」を随分叩かれたではないか。こ
うした過去の記憶が、慣れとともに「無駄」を省く方向に、人々を誘導する。
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雪印では...
−疑惑の放置−
・苦情(おなかが痛いとの訴え)を過小評価
・原材料に毒素発生の疑いが持たれつつも工場へ出荷し続ける
−汚染の拡大−
・原材料となる脱脂粉乳の汚染(停電によるライン停止で毒素発生か?)
→タンクのバルブが汚染される
→汚染されたバルブを別のタンクに使用し感染拡大を招く
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医療機関では?
−医療事故の兆候はないか?−
・ちょっとしたクレーム、ヒヤリ、ハットはないか
−院内感染の危険性−
・感染源となるものの管理は十分か − 点滴・輸血用器材などによる感染拡大
・医療機関側(医師・看護婦)が感染源になる恐れ
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対応策は?
−初期対応−
・ちょっとしたクレームやヒヤリ・ハット事例を軽視せず、原因追及と迅速な改善策の実施を
−衛生管理の徹底−
・器材の消毒・滅菌の徹底
・清潔の励行(施設・従業員)
・感染拡大を防ぐ施策の実施(ディスポの使用、感染源の隔離等)
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雪印では...
−業界ルール−
・未出荷の在庫品や返品商品の再利用(厚生省令には違反しない)
・雪印の場合、省令の基準違反となる期限切れの製品を再利用していた可能性あり
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医療機関では?
−業界ルール−
・誤薬やカルテの間違いを当然のこととして受け入れる態度はないか
・医療機関における常識が必ずしも世間一般の常識として通るとは限らない
・世間の常識外の行為が医療界に存在しているかも知れない
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対応策は?
−ディスクロージャーに耐え得る体制づくり−
・開かれた医療(情報公開、インフォームドコンセント)
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雪印では...
−ずさんな管理−
・洗浄記録のない工程があることが判明
−対応の遅れ−
・消毒の不備や洗浄記録がなかったことなどの情報が現場から速やかに役員へ報告されていなかった
・企業トップの現地視察や対策本部の設置が速やかに行われなかった
・食中毒発生から事件発表・商品回収まで時間がかかり、内容も二転三転した
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医療機関では?
−安全管理−
・院内感染対策、事故防止対策
・仕事量に対しての人員配置は適切か
−報告体制−
・事故やミスが速やかに責任者に報告されているか
・隠そう、取り繕おうとする姿勢が現場の職員にないか
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対応策は?
−マニュアル作成等−
・院内感染対策マニュアルの作成、活用
※以下のマニュアルは、医師会事務局に用意しております。
・結核院内感染予防の手引き
・バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)院内感染防止対策
・レジオネラ菌に対する院内感染防止対策
・医療事故後のHIV感染防止のための予防服用マニュアル
・インシデントレポートの作成
・事故防止対策委員会等の設置
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<医療情報室の目> |
★衛生管理の徹底は医療機関も同様
雪印の食中毒事件の原因は現在、毒素が発生していた可能性がある原材料の脱脂粉乳を用いたことが原因と報じられています。加えて、不衛生な
製品製造過程が感染拡大を招いたと言えます。
衛生管理については、医療機関において最も注意すべき点の一つであることは言うまでもありません。当然の事として日常励行されておりますが、
日常作業であればこそ、細心の注意をもって行わなければなりません。“慣れ”は危険です。清潔作業を再確認することが必要と考えます。
★不信の増幅は世間との認識のずれ
一度出荷した牛乳を再度タンクに入れて製品にするなどは、消費者や業界外の人から考えると信じられないことではないでしょうか。しかし、一定
の規定の下では厚生省も認めている手法でした。このような業界の常識と世間の常識のずれが、衝撃を大きなものとした一因でもありました。
医療界にあっても、同じようなことが言えるかも知れません。インフォームドコンセントにはじまる、開かれた医療であることが求められます。情
報開示を前提とした体制づくり、業務の見直しが必要でしょう。
★事故発生後の対応を適切に行う事
ミスやエラーは、まず隠さず報告させる体制作りが必要です。速やかに組織的対応を図ることが事故を最小限度に抑えることにつながると考えます。
そのうえで、事故原因の究明、再発防止対策の検討を行い、具体的な事故防止対策や安全管理マニュアルを作成し、職員に徹底させることが望まれます。
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