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特集:医療と『消費者契約法』
消費者契約法が本年4月に成立しました。この法律は消費者が事業者と結んだ契約に係るトラブルを公正かつ円滑に解決するための 民事ルールとして、いわゆる悪徳商法や悪質なキャッチセールスなどから消費者を守ることを目的としています。
消費者契約法上、医療機関も「事業者」として患者「消費者」との関係が存在し、この法律の適用を受けることとなります。
今回は消費者契約法が医療の分野にどう関係するかについて特集しました。
※ 本レポートは日本医師会が作成した解説書「医療と消費者契約法」の内容を基に作成しました。
消費者と事業者の間には、その商品やサービスに関する情報の質・量及び交渉力に格差が存在するため、事業者が消費者の知識
不足につけこみ不利な契約を無理に結ばせるなどのトラブルも発生しています。
消費者契約法は、このような不都合をなくし、消費者が不利な契約を意に反して結ばされたり、契約を結ぶ際に不当な圧力をか
けられた場合には、その契約が初めからなかったことにして、消費者の利益の擁護を図るものです。
尚、「消費者契約」とは、個人(消費者)が事業者との間で結ぶ契約のことを言います。
例:@個人で診療所を開業する医師が自宅で使うためにテレビを買う場合 → 消費者契約となる
A個人で診療所を開業する医師が診療所の備品としてテレビを買う場合 → 消費者契約ではない
@ 契約を結ぶまでの段階
○契約内容の重要な部分について事実と異なることを告げたり、誤解させること
○事業者が消費者の住居などに居座ったり、逆に消費者を勧誘する場所に閉じこめて出て行かれなくすること
→消費者は、その契約を後から取り消すことができる
A 契約の内容に関すること
○消費者が事業者に対して損害賠償請求することを放棄または制限する内容
○消費者が契約を解除したり、代金支払いが遅れた場合に支払う賠償金、違約金等の金額あるいは利息が不当に高い内容
→これらの内容は、最初から無効なものとして扱われる
@ |
消費者契約法と関係がない部分
○通常の保険診療は、患者さんが窓口で保険証を提出し診療を申し込んだ時点で、大まかには診療契約が既に成立しているも
のと考えられ、さらに実施する治療法にかかる費用などは予め公定されているため、消費者(患者さん)に不利な診療契約を無理
に結ばせるということもあり得ず、消費者契約法が適用されることはまず考えにくい。
○医療行為の過程で発生する事故など
契約が結ばれた後の問題であり、消費者契約法とは関係がない。
(但し、民法に基づき損害賠償請求を受けることはある)
○特別の法律によって患者が入院等を強制されている場合
結核予防法・精神保健及び精神障害福祉に関する法律・麻薬及び向精神薬取締法・感染症の予防及び感染症の患者に対す
る医療に関する法律に基づく命令入所・入院措置など
○労働安全衛生法により労働者が受ける健康診断など
○身元が判明しない意識不明の患者を救急外来で診療する場合など
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A |
消費者契約法と関係する部分
○産婦人科における普通分娩
○保険適用外の美容整形手術や形成外科治療
○海外旅行や採用試験のためなど個人が希望する健康診断
○入院における施設利用等(病室、ベッド、テレビ等の提供)
○診断書などの文書料金
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@ 契約を結ぶまでの段階
○入院時の差額ベッド料、テレビ使用料金などについて説明が不十分であった場合
○美容整形手術、分娩など、特に保険適用外の医療の料金や方法等について、予め明確な説明をしなかった場合
○診断書の発行希望があった際に料金の説明なく診断を行い、高額な料金を請求し、患者が納得しなかった場合
A 契約の内容に関すること
○手術・検査などに際して患者さんから「万一、予期せぬ結果が生じても一切異議を申しません」といった内容の証書を差し入れさせること
○診療予約のキャンセルや、診察料の支払い遅延などの場合の違約金、損害賠償金の額を高額に設定すること
消費者契約法に違反する契約は、消費者側から取り消すことができるか、最初から無効として取り扱われることとなるなど、当
事者間のトラブルを解決することに主眼を置いています。
したがって、この法律ができたことにより新たに処罰を受けたり、医業停止などの行政処分を受ける、あるいは損害賠償を請求
される可能性が増えるというものではありません。
日頃から患者さんへの十分な説明を実践している医師・医療機関は、消費者契約法が制定されたからといって特別な対策を講じ
る必要はありません。但し、消費者契約法は事業者一般に対して消費者への正確かつ十分な情報提供を促すとともに、消費者が自
由な意思に基づいて契約を結べる環境を整える法律であるため、この趣旨を十分に理解し、医師・医療機関として患者さんへのよ
り一層の情報提供に努めるよう、医療機関の事務部門を含めた日常診療の見直しをお願いします。
特に、入院、分娩など患者負担の料金がかさむ部門では、料金体系をわかりやすく説明する張り紙、文書を用意するなどして、
患者さんが利用しやすい環境を整えるよう配慮が必要です。
<医療情報室の目> |
★医療契約(診療契約)における医師の債務と消費者契約法
法律上、患者が診療を依頼し医師が引き受けたときには契約が締結されたものとされ、権利義務関係が生じます。この契約において医師の
負う債務は、患者に対し善管注意義務に従い医学界の水準に対応して医療行為を実施する「手段債務」であり、治癒を成功させる義務「結果
債務」までは負っていません。
また、契約が成立した段階では医師の債務の内容は上記のごとく抽象的であり、診療が進むにつれて具体化していきます。注射・投薬とい
った個々の治療行為は診療契約上の債務の具体的な履行行為の一部であり、これらについて個々別々に契約が成立するものではないとされて
います。
したがって、消費者契約法の適用対象となる部分は最初の診療申込の際の契約であるので、その後の治療結果については法の及ぶ範囲外で
す。医療機関で通常行われる保険診療の場合の契約については、ほとんど消費者契約法の影響を受けないと言ってよいでしょう。
しかしながら、自由診療や差額ベッド代等については料金等が公定されていないので、十分な説明と患者さんの同意を得ることが必要となります。
尚、消費者契約法は医療契約の際に契約書面を取り交わすことを義務付けるものではないので、従来どおりの窓口での受付でかまいません。
★診療情報の提供を心懸ける
分娩を扱う産婦人科や保険適用外の手術を行う美容外科や形成外科においては、契約を結ぶまでの段階において特に患者の負担に関するこ
とは十分な情報提供を行うことが必要となります。また、診療の内容等についても重要な事実は告げなければなりません。これら情報提供は、
消費者契約法に限らず、また産婦人科・美容外科・形成外科に限らず全ての医療機関において日常診療における患者さんとの良好な信頼関係の
醸成のために実践して行かなければならないことは、既に本レポートなどによりお知らせしているとおりであり、会員の先生方には周知の事実と存じます。
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医療情報室の最新号は情報番号「0099」、過去のレポートについては「9+レポート番号3桁」です。
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