医療情報室レポート |
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2000年6月30日 特集:危機管理対策を考える
※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。 担当理事 江 頭 啓 介・入 江 尚
社会構造の複雑化・多様化と個人の権利意識の高揚に伴い、あらゆる産業分野において企業防衛を目的に危機管理対策 (リスク・マネジメント)が採り入れられています。
医療の分野においても、医療事故・医事紛争が増加傾向にある中で、特に昨今の大学病院等で発生した医療事故により
国民の医療不信が増長し、安全管理体制が問われています。
医療事故を未然に防止し、安全な医療提供体制を確立するという観点から、今回は危機管理対策について特集しました。
危機管理(リスクマネジメント)発想の経緯
アメリカにおいて企業防衛を目的に開発され発展し、その後、航空業界など「安全」が求められる職場に広く採り入れられるよ
うになった。
医療の分野においても、医療事故や医事紛争が増加し、これらを未然に防止する観点から採り入れられ、日本医師会では平成10
年3月に医療安全対策委員会が「医療におけるリスク・マネジメントについて」答申
を行っている。
※本レポートはこの答申書の内容を基に作成しました。
基本的考え方・一般論
○
「人間は必ずミスを犯す」
○
プラス(作用)の裏にはマイナス(反作用・副作用)が同居する。
○
事故は特定の者の人為的ミスやエラーによって引き起こされるのではなく、それを媒介として複数の関与者に
よる二重三重のミスやエラーが介在した複合的な場合が多い。
○
ハインリッヒの法則:労働災害で1件の死亡事故が発生した場合、その背後には約30件の傷害事故が発生し
ており、さらにその背後には約300件のニアミス例(事故の予備軍)が存在する。
医療において特に考慮すべき視点
○
医療を担う者としての基本的な姿勢を再確認する
国民の生命を預かり健康を増進する使命を担う医師は、何よりもまず人の生命に対して畏敬の念を抱くべきであることはい
うまでもない。医師は医療サービスの担い手であるという視点に立てば、患者が安心して医療を受けられる環境を整え、提供
することが求められる。
患者が安心しうる環境とは、医師と患者の間に信頼関係が醸成されていることを前提とする。患者からの医師への信頼には、
「医師の技術、判断が的確で誤りがないこと」が基本的な前提となる。そのうえで、「患者と医師との意志疎通が円滑に行われ
ること」も求められる。
○
マイナスの情報を隠さず詳らかにする習慣を育てる
国民の生命を預かる医師としては、あらゆる事故の先例を教訓とし同じ過ちを繰り返さない努力をなすべきである。教訓と
なるべき事故やミスの先例に関する情報は、それを犯した医師本人が、他の医師の学習のためにも進んで提供することが求め
られる。
○
原因追及の作業を「犯人探し」で終わらせない
真の事故原因は、何故その行為者がかかる不手際、不注意を犯したのか、それをもたらした原因は何か、と言う点にある。
すなわち、原因究明において重要な視点は、「誰が事故を起こしたか」ではなく、「何が事故を招いたか」であることを銘記す
べきである。
○
正確な情報に基づき事故予防システムを構築し活用する
事故防止の対策は、個々の医療施設においてそれぞれの設備、人員、その他の事情を考慮して、独自に作成することが望ま
しい。また作成した事故防止対策は、マニュアルやチェックシートなど、簡明にして実際に活用しやすい形態にまとめること
も肝要である。そのうえで予防対策の使用にあたっては、不都合な箇所、不足する箇所等を絶えずチェックし、修正しながら
用いていくことが重要である。
医療機関における危機管理対策
○
事故報告体制等の組織整備
自己の施設内で発生した医療事故について自主的に報告・届出をなすシステムを整備する。これは懲罰目的ではなく、あく
までも事故原因の解明と、再発防止対策の検討に有用な情報を収集するという建設的な目的をもつものであり、この趣旨をす
べての管理者、スタッフに徹底する。
またこの組織は、収集した情報を活用し具体的な事故防止対策としてマニュアル化したり、教育に生かす方法を企画する際
の中心的役割を担う組織とする。
○
安全対策マニュアルの作成と徹底
過去のエラー報告、事故の経験、その他の知見を基に、独自に事故防止のためのマニュアルを作成し、施設内のスタッフに
徹底する。マニュアルは簡潔で注意を喚起しやすい体裁とし、具体的には、基本的ではあるが見落とすと重大な事故につなが
る恐れがあるチェックポイントなどを、一枚のチェックマニュアル形式で作成し、医師自らが復唱して確認をするといった使
い方が考えられる。
○
医療現場の意識改革
事故防止や安全に必要な事項は、席次や権限の枠にとらわれることなく、誰もが自由に発言し、建設的な議論をなしうる雰
囲気を医療現場に醸成する。これは個々のスタッフに意識の改革を迫るものであり、この意識改革を成功に導く要諦は、まず
医療施設の管理者など上級職にある医師自身が率先して意識改革をすることである。
○
医療職の労働条件の改善
医療施設における人員不足は、一人あたりの労働量を増加させ、過労、多忙による注意力の欠如からのミスやエラーを誘発
する。人員補充により医療スタッフ一人あたりの労働量を軽減し、労働環境を整備することが、患者の安全をもたらし、医療
事故の予防につながる。
※労働環境の整備の問題は、個々の医療施設の努力では限界があることも事実であり、医療職種の受給の見直しや診療報酬
面での手当などを国家レベルで取り組み、改善していくことも同時に求められる。
平成12年度第1回定時代議員会は、昨今の医療事故多発の状況に鑑み、全会一致で次のとおり宣言文を採択しました。
福岡市医師会代議員会<宣言>
<医療情報室の目>
★“慣れ”が危険−常に意識の中で有事を予測しておく
安全を確保するためには、その行為に伴う負の面を意識し、注意しておく必要があります。事故は特別な施設にのみ起こりうる
のではなく、常に発生しうる日常的なものであるとの理解をもっておくべきです。特にroutineな業務ほどミスに対する意識が薄れ
、肝心なところを見落としがちになります。作業の一過程毎に確認を行うことが重要と思います。そのためにも日常の業務を再確認
し、チェックシートなどを用いた事故防止マニュアルを作成することが有用と考えます。
★情報収集と検証
事故を未然に防止するためにも、特に「ヒヤリ」「ハッとした」体験を報告させ、情報収集を行うとともに、何故そうなったかを
検証し、同じ過ちを繰り返さないようスタッフ一同に徹底させましょう。職員に報告させるための雰囲気作りも重要です。まず院長
先生が率先してこれを行い、全職種で事故防止に取り組む姿勢を持ちましょう。
★万一事故が起きた場合
不幸にして事故が起きた場合は、これを故意に隠そうとすることは得策でないと考えます。事故に対し迅速に、適切に対応すると
ともに、その後の情報開示の進め方、処理の仕方など、事故が起きた後の検証と組織的対策がより重要です。
★
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