bQ5
2000年6月2日
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1501・FAX852-1510
特集:21世紀の医療提供体制
−日医総研:2015年医療のグランドデザイン−
他国に例を見ない少子高齢社会で21世紀を迎えるに際し、日本医師会は平成 9年に医療構造改革構想を発表するなど、医療の担い手としてこれまでに様々
な政策提言を行っています。
さらに本年4月には日医総研から「2015年医療のグランドデザイン」が発
表され、日医が主張する医療政策の理論的根拠が示されました。
今回は21世紀の医療をめぐる環境がどうなるのか、どうあるべきかについて
日医総研が示したグランドデザインより略紹介します。
○年齢区別人口の年次推移からみた人口構造変化の特徴
@総人口は2007年の1億2,778万人をピークに減少。→ 人口減少時代の到来
A生産年齢(15〜64歳)人口は1995年の8,726万人をピークに減少。→ 総労働力の減少、労働力の高齢化
B前期高齢者(65〜74歳)人口は2016年がピーク。
→ 超高齢化社会の到来
C後期高齢者(75歳以上)人口は2028年まで増加。
○2015年の人口構造は?
総人口の減少と高齢化(特に後期高齢者の大幅な増加)が同時に進行
↓
※日医総研では人口構造のアンバランス現象の発生 <ターニングポイント> となる2015年を展望して、
制度設計や財源計画を検証。
<推計の前提> |
1.将来推計における単価の伸びには、インフレ率を考慮していない
2.介護費用に関しては、2015年の段階で需要に対して基盤整備が100%達成されると仮定
3.2005年に医療と介護を統合し、『高齢者医療制度』を創設することを想定
4.一般医療保険制度の単価の伸びは、病院・診療所・歯科診療所で年率2.5%、その他は0.5%と想定
5.高齢者医療制度については、高齢者医療費の出血を止めることが重要政策課題であるため、
年率0.5%程度の単価の伸びとすることを想定
|
保険制度 |
項 目 |
入院(所)費用 |
入院(所)外費用 |
その他費用 |
合 計 |
一般医療 保険制度
|
病院
診療所
歯科診療所
薬局調剤医療費
入院時食事療養費
その他施設入所費用
在宅系サービス
保険者コスト等 |
108,878
5,023
7,574
4,757
|
80,199
90,181
41,122
13,555
7,311
|
2,690 |
189,076
95,205
41,122
13,555
7,574
4,757
7,311
2,690 |
小 計 |
126,232 |
232,368 |
2,690 |
361,290 |
高 齢 者 医療制度
|
病院
診療所
歯科診療所
薬局調剤医療費
入院時食事療養費
その他施設入所費用
在宅系サービス
保険者コスト等 |
67,016
1,587
7,686
35,070
|
25,378
28,537
3,607
5,958
23,160
|
1,485 |
92,394
30,124
3,607
5,958
7,686
35,070
23,160
1,485 |
小 計 |
111,359 |
86,640 |
1,485 |
199,485 |
合 計 |
237,591 |
319,009 |
4,175 |
560,775 |
○2000年推計
【国民医療費・介護費:334,905億円】
区分 |
金額 |
比率 |
国民1人当たり家計負担
12.2万円/年 |
*事業主負担→保険料のうちの事業主負担分
家計負担 →保険料のうちの被保険者負担分
+窓口自己負担分 |
公 費 |
107,464 |
32.1% |
事業主 |
72,292 |
21.6% |
家 計 |
155,149 |
46.3% |
○2015年推計
【国民医療費・介護費:560,775億円】
☆第T案:一般医療保険の保険料の事業主負担と被保険者負担割合を現行水準とした場合
(高齢者医療制度の創設を前提としているため、現行水準とは若干違いが生じる)
区分 |
金額 |
比率 |
2000年からの
1年当たり伸び率 |
国民1人当たり家計負担
20.5万円/年 |
メリット :現行の負担割合を維持するの
で、軋轢が少ない。
デメリット:家計負担が高すぎる。
一般医療の中に含まれる公費負
担医療分の財源を公費で調整
できず、合理的ではない。 |
|
公 費 |
179,537 |
32.0% |
3.5% |
事業主 |
122,477 |
21.8% |
3.6% |
家 計 |
258,537 |
46.1% |
3.5% |
☆第U案:公費、事業主、家計三者の負担割合をそれぞれ1/3ずつと想定した場合
区分 |
金額 |
比率 |
2000年からの
1年当たり伸び率 |
国民1人当たり家計負担
14.8万円/年 |
メリット :負担割合を均一にすることで、
公平性が保てる。
デメリット:現行の負担率が低い事業主負担
の伸びが大きくなる。
|
|
公 費 |
186,925 |
33.3% |
3.8% |
事業主 |
186,925 |
33.3% |
6.5% |
家 計 |
186,925 |
33.3% |
1.2% |
☆第V案:公費、事業主、家計三者の負担割合を3.5:3:3.5と想定した場合
区分 |
金額 |
比率 |
2000年からの
1年当たり伸び率 |
国民1人当たり家計負担
15.5万円/年 |
メリット :第T案の問題であった公費負担
医療分野も殆ど公費で賄え、財源
的な一貫性が保持できる。
デメリット:家計負担と比較して公費、事業
主の負担の伸び率がやや高い。
|
|
公 費 |
186,925 |
33.3% |
3.8% |
事業主 |
186,925 |
33.3% |
6.5% |
家 計 |
186,925 |
33.3% |
1.2% |
<医療情報室の目> |
★日医が提案する「高齢者医療制度」
2002年度実施を目途とする高齢者医療制度の見直しについては、政府与野党などで様々な案について検討が進められています。
日本医師会の案は、2005年に医療と介護を統合し、今後激増する後期高齢者75歳以上を対象とした制度を想定しています。
また、健康に対するリスクの高い後期高齢者のみで一つの保険集団を形成すると保険原理が機能しないため、重点的に公費を投入
し保険から保障へと制度の転換を図ることを提案しています。
現在の老人保健拠出金をめぐる状況でも明らかなように、高齢者医療制度の創設は喫緊の課題といえます。
★「自立投資」の概念
今回のグランドデザインでは、かねてより坪井日医会長が提唱されてこられた「自助」
の概念として、「自立投資」の導入が示されています。
遺伝子治療、臓器移植や健康増進、療養の環境など、選択性のある医療については個々の意志で健康的に自立するための「投資」と位置
づけ、財源としては民間保険や医療貯蓄などを活用することを提案しています。
社会保障の概念である「公助」「互助」の精神に加え、「自助」の概念を意識することにより、国民各自が社会保障を支えていくという
「国民的合意」の形成を目指しています。今後、自立投資の概念や適用範囲について、よりはっきりとその姿が見えてくるものと期待されます。
|
※ご質問や何かお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までお知らせ下さい。
(事務局担当 百冨 TEL852-1501 FAX852-1510)
担当理事 江 頭 啓 介・入 江 尚
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