医療現場の昔と今
医療現場を取り巻く環境や考え方が日々変化し、進化しています。まず病気の傾向としては、高齢化社会に伴いお年寄りに多い脳卒中、心不全、肺炎、骨折が増えています。高齢患者さんは複数の疾患を患っていることが多いため、複雑で重症化しやすく、再発を繰り返す人が必然的に増加することになります。
手術の方法は、昔は創(きず)が大きい手術が主流でした。そのため体への負担が大きく高齢患者さんは手術を諦めなければならないこともありました。現在は負担が少ない内視鏡手術やロボット手術が主流です。多くの場合、5㎜程度の小さい創で手術することができるため、出血や手術後の痛みが少なく、回復が早い、すなわち体に優しく、なおかつ精緻(せいち)で安全な手術が可能となりました。
また、以前は薬を沢山処方していましたが、多用するほど副作用もあります。現在は運動や食事などの生活指導をして根本から治すことが推奨され、それでも治らない部分を薬で治療していきます。このように今は薬が少ない治療が推奨されています。
さらに、診療体制や患者さんとの関わり方も大きく変わりました。以前は、医師が治療の中心でしたが、今は医療従事者全員が対等の立場でチーム医療を行っています。医療現場は国家資格を持つ専門職の集団です。それぞれの職能を生かし、お互いを尊重して多職種が協働することで、安全で質の高い医療を提供できます。患者さんは、以前は医師に言われた通りの治療を受け、がんなど重篤な病は家族にだけ告知を行い、知らないのは本人だけという状況でした。しかし、現在は患者さんの価値観、人生観を尊重して、医療従事者と患者さん本人が、力を合わせて治療方針を決めています。患者自身が「生き方(逝き方)」を決める権利も大切と考え、末期がんであっても本人に告知を行います。
変化は医師の働き方にも及んでいます。以前は長時間労働など、過酷な働き方を強いられていましたが、もし皆さんが手術を受けるときに執刀医が数日間眠っていない状態であればどう感じるでしょうか? 適切な判断や安全な治療のためには医師の健康も大切にする必要があります。2024年度からは医師の働き過ぎに罰則が適用されます。より良い医療が提供できるように、これからもさまざまな変化が起こることと思います。
社会医療法人財団白十字会 白十字病院 渕野 泰秀 先生
取材記事:ぐらんざ