医療情報室レポート No.272 特集:「かかりつけ医」について~その2~

2025年3月28日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集:「かかりつけ医」について~その2~

 改正医療法(令和5年5月成立)により令和7年4月から「かかりつけ医機能報告制度」が開始され、医療機関は自院が持つ機能を都道府県に報告することが求められる。(初回報告は令和8年1~3月予定)
 複数の慢性疾患や医療と介護の複合ニーズを有することが多い高齢者の増加と生産年齢人口の急減が見込まれる2040年を見据え、医療を必要とする方を地域で支えるためにこれまでの地域医療構想や地域包括ケアの取組みに加え、「かかりつけ医機能」が有用となる制度整備が進められてきた。
 「かかりつけ医機能」を巡っては日本医師会や財務省などが様々な提言を行い、政府が制度設計を進めている状況について本レポートNo.257(2023/1/27)で特集したところであるが、今回の法改正により「かかりつけ医機能」は「身近な地域における日常的な診療、疾病の予防のための措置、その他の医療の提供を行う機能」と定義されることとなった。
 今回は、「かかりつけ医機能報告制度」の概要、医療機関の報告事項や今後のスケジュールについて特集する。

●「かかりつけ医機能報告制度」とは?

 改正医療法では「かかりつけ医機能」を下記の5項目と定めている。
 医療機関はこれらの機能を都道府県に報告、都道府県は医療機関が有する「かかりつけ医機能」を確認して「外来医療に関する地域の関係者との協議の場」に報告。
 同協議の場で地域の「かかりつけ医機能」を確保するために必要な方策を検討し、結果を取りまとめ公表する制度が「かかりつけ医機能報告制度」である。

「かかりつけ医機能」について
1号機能  1.日常的な診療を総合的かつ継続的に行う機能
2号機能  2.通常の診療時間外の診療
 3.入退院時の支援
 4.在宅医療の提供
 5.介護サービス等と連携した医療提供

●医療機関の報告事項

 報告が必要な対象医療機関は全ての病院および診療所(特定機能病院・歯科医療機関は除く)で、報告内容によって「1号機能」「2号機能」に分けられる。
 前述の「かかりつけ医機能」のうち、1が「1号機能」2~5が「2号機能」と呼ばれ、その他の報告事項として「健診、予防接種、地域活動(学校医、産業医、警察業務等)等」も含まれる。
 各機能の詳細は以下のとおりで、「1号機能」の報告事項がいずれも「可」の場合、医療機関は「2号機能」の報告も求められる。

1号機能
対象医療機関 病院・診療所(特定機能病院・歯科診療所は除く)
医療機関の報告事項
  • 「具体的な機能」(※1)を有すること、「報告事項」院内掲示していること
    ※1 継続的な医療を要する者に対する発生頻度が高い疾患に係る診療、その他の日常的な診療を総合的かつ継続的に行う機能
  • かかりつけ医機能に関する研修修了者総合診療専門医有無
  • 17の診療領域(※2)ごとの一次診療の対応可能の有無、いずれかの診療領域について一次診療を行うことができること
    ※2 皮膚・形成外科領域、神経・脳血管領域、精神科・神経科領域、眼領域、耳鼻咽喉領域、呼吸器領域、消化器系領域、肝・胆道・膵臓領域、循環器系領域、腎・泌尿器系領域、産科領域、婦人科領域、乳腺領域、内分泌・代謝・栄養領域、血液・免疫系領域、筋・骨格系および外傷領域、小児領域
  • 一次診療を行うことができる疾患(※3)
    ※3 高血圧、腰痛症、関節症(関節リウマチ、脱臼)、かぜ・感冒、皮膚の疾患、糖尿病、外傷、脂質異常症、下痢・胃腸炎、慢性腎臓病、がん、喘息・COPD、アレルギー性鼻炎、うつ(気分障害、躁うつ病)、骨折、結膜炎・角膜炎・涙腺炎、白内障、緑内障、骨粗しょう症、不安・ストレス(神経症)、認知症、脳梗塞、統合失調症、中耳炎・外耳炎、睡眠障害、不整脈、近視・遠視・老眼、前立腺肥大症、狭心症、正常妊娠・産じょくの管理、心不全、便秘、頭痛(片頭痛)、末梢神経障害、難聴、頚腕症候群、更年期障害、慢性肝炎(肝硬変、ウイルス性肝炎)、貧血、乳房の疾患
  • 医療に関する患者からの相談に応じることができること

2号機能
対象医療機関 「1号機能」を有する医療機関(「1号機能」の報告事項がいずれも「可」の場合)
医療機関の報告事項
  • 通常の診療時間外の診療
  1. 自院または連携による通常の診療時間外の診療体制の確保状況(在宅当番医制・休日夜間急患センター等に参加、自院の連絡先を渡して随時対応、自院での一定の対応に加えて他医療機関と連携して随時対応等)、連携して確保する場合は連携医療機関の名称
  2. 自院における時間外対応加算1~4の届出状況、時間外加算・深夜加算・休日加算の算定状況
  • 入退院時の支援
  1. 自院または連携による後方支援病床の確保状況、連携して確保する場合は連携医療機関の名称
  2. 自院における入院時の情報共有の診療報酬項目の算定状況
  3. 自院における地域の退院ルール地域連携クリティカルパスへの参加状況
  4. 自院における退院時の情報共有共同指導の診療報酬項目の算定状況
  5. 特定機能病院・地域医療支援病院・紹介受診重点医療機関から紹介状により紹介を受けた外来患者数
  • 在宅医療の提供
  1. 自院または連携による在宅医療を提供する体制の確保状況(自院で日中のみ、自院で24時間対応、自院での一定の対応に加えて連携して24時間対応等)、連携して確保する場合は連携医療機関の名称
  2. 自院における訪問診療・往診・訪問看護の診療報酬項目の算定状況
  3. 自院における訪問看護指示料の算定状況
  4. 自院における在宅看取りの診療報酬項目の算定状況
  • 介護サービス等と連携した医療提供
  1. 介護サービス等の事業者と連携して医療を提供する体制の確保状況(主治医意見書の作成、地域ケア会議・サービス担当者会議等への参加、介護支援専門員や相談支援専門員と相談機会設定等)
  2. 介護支援専門員や相談支援専門員への情報共有・指導の診療報酬項目の算定状況
  3. 介護保険施設等における医療の提供状況(協力医療機関となっている施設の名称)
  4. 地域の医療介護情報共有システムの参加・活用状況
  5. ACP(人生会議)の実施状況

※厚生労働省資料をもとに作成

●今後のスケジュール

 「かかりつけ医機能」の報告は、既存の「医療機能情報提供制度」と同時期の1~3月に今後毎年実施される。
 令和7年4月以降のスケジュールは以下のとおりで、制度施行後、最初の報告は令和8年1~3月に予定されており、医療機関は原則「医療機関等情報システム(G-MIS)」を利用して報告することになっている。

医療情報室の目

★地域医療提供体制の一層の充実

 コロナ禍という有事において我が国は欧州と比べると比較的感染者数と死亡者数は少なかったが、医療へのアクセスを巡る問題が顕在化したこともあり、「かかりつけ医」の制度整備に関する議論が進められてきた。しかしながら、「かかりつけ医」が制度化された英国において、新型コロナへの対応でその機能が十分に発揮されなかったことを踏まえると、「かかりつけ医の制度化」ではなく、地域の医療機関が連携して 「かかりつけ医機能」を担っていくことが日本においてはふさわしいことが日本医師会総合政策研究機構の国外調査で明らかになっている。
 令和7年4月開始の「かかりつけ医機能報告制度」の目的は、地域の医療事情に応じて各医療機関が「かかりつけ医機能」を高めていくことにあり、まずは自院が担っている機能を報告、地域全体で不足する機能にどう対応していくか「外来医療に関する地域の関係者との協議の場」(地域医療構想調整会議等)で具体的に検討、都道府県は地域住民にその情報を公表していくことにある。この制度で「かかりつけ医機能」は医師個人の役割ではなく、病院および診療所が持つ機能を示している。
 今回の制度整備にあたっては、「かかりつけ医」の登録制を含め様々な議論が行われたが、結果的には必要な時に必要な医療が受けられる「フリーアクセス」の原則が保持され、患者が「かかりつけ医機能」を担う医療機関を選択できるよう制度設計されている。我が国の優れた医療保険制度である「フリーアクセス」を堅持するためにも、今後、かかりつけ医の認定制や登録制などの議論が再燃することがないよう注視していく必要がある。
 地域によって医療資源の事情は異なることから、各地域の現状を把握して問題点を分析することが求められており、「かかりつけ医機能」を担う医療機関は診療科を問わず、より多くの医療機関が本制度に参加してもらうことが重要である。各地域医師会においては「地域を面として支える」医療を確保するために、自治体・病院や診療所との良好な関係構築に尽力するなど横糸を伸ばす取組みが欠かせず、併せて医師個人には日本医師会が提供する生涯教育制度やかかりつけ医機能研修制度(研修受講等の詳細は本レポートNo.257参照)などを受講して縦糸を伸ばすことも必要となる。在宅医療や介護連携等は市町村単位で提供されていることから、我々地域医師会にはより良い医療提供体制作りに果たすべき役割は益々高まり、一層の充実に勤しむ所存である。

編集
福岡市医師会:担当理事 江口 徹(情報企画・広報・地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)