医療情報室レポート No.269 特集:令和6年度診療報酬改定のポイント

2024年11月28日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集:令和6年度診療報酬改定のポイント

 令和6年の診療報酬改定は6月に行われた。従来、改定時期は4月であったが、医療機関には膨大な改定内容への対応が都度求められ、電子カルテやレセプトについても短期間でシステム改修が必要など負担が大きいことから、今回より6月1日の施行となった。
 また、今回は3年に一度改定される「介護報酬」と「障害福祉サービス等報酬」を合わせた3つの報酬が同時に改定される、6年に一度の“トリプル改定”の年にあたり、医療・介護・障害で一体的に制度を整備する大規模な改定が行われた。
 「診療報酬」改定では、昨今の光熱費や材料費をはじめとする物価高騰の状況、30年ぶりの高水準となる賃上げの状況といった社会情勢への対応として医療従事者の処遇改善が大きなテーマとなり、その他にも入院機能をはじめ、外来や在宅医療、医療DXなど多岐にわたる見直しが行われている。
 今回は「診療報酬」に焦点を当て、令和6年度診療報酬改定の改定率、改定のポイント、福岡市医師会の取組みについて特集する。

●令和6年度診療報酬改定の改定率

 医師の技術料や人件費に当たる「診療報酬本体」+0.88%と前改定より引き上げられており、+0.61%は看護職員等の医療関係職種の賃上げ、+0.28%程度は40歳未満の勤務医師や事務職員等の賃上げに充てられている。一方、生活習慣病を中心とした管理料などは-0.25%の方針が示され、前回同様、政府が予め改定事項を決めた内容が含まれている。
 薬の公定価格である「薬価等」-1.00%「診療報酬本体」「薬価等」を差し引きすると全体では-0.12%で、5期連続のマイナス改定となった。

●改定のポイント

○賃上げ・基本料等の引上げ

「ベースアップ評価料」の新設
 今改定では医療従事者の人材確保や賃上げを目的に「ベースアップ評価料」が新設され、改定率において大部分を占める内容となった。厚労省は対象職員の基本給を令和6年度に+2.5%令和7年度に+2.0%上乗せすることを目標としている。
 外来や在宅医療の医療機関向けには「外来・在宅ベースアップ評価料」が新設され、次に示す医療関係職種が対象で算定には届出が必要となる。算定条件が複雑で定期的な実績報告が煩雑なこともあり、東京都医師会や大阪府医師会、福岡県医師会で調査が行わ福岡県医師会で調査が行われた。令和6年9月の福岡県医師会の調査では、病院の約8~9割が届出する一方、診療所は約5割の届出状況であった。
 厚労省は令和6年9月に届出様式を一部簡素化、解説動画や支援ツールをホームページに掲載して届出を促しているものの、次回改定時に要件厳格化や点数自体の廃止を懸念する声もある。日本医師会としては今回の診療報酬に勘案されている「ベースアップ評価料」をできるだけ算定するように呼びかけている。

「初診料」「再診料」「入院基本料」の引き上げ
 「ベースアップ評価料」の対象外となる職種への賃上げの原資として、初診料が3点再診料と外来診療料が2点各入院基本料も引き上げられた。初診料等の引き上げは消費税増税時を除けば、平成16年の改定以来、20年ぶりとなる。

<「ベースアップ評価料」の対象職種>
薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、看護補助者、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士、義肢装具士、歯科衛生士、歯科技工士、歯科業務補助者、診療放射線技師、診療エックス線技師、臨床検査技師、衛生検査技師、臨床工学技士、管理栄養士、栄養士、精神保健福祉士、社会福祉士、介護福祉士、保育士、救急救命士、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゆう師、柔道整復師、公認心理師、診療情報管理士、医師事務作業補助者、その他医療に従事する職員(医師、専ら事務作業を行う者は除く)

※厚生労働省ホームページをもとに作成

○「医療DX」の推進

「医療DX推進体制整備加算」新設
 医療機関の「医療DX」体制整備に対する評価として、令和6年6月に「医療DX推進体制整備加算」が新設された。
 同年10月からはマイナ保険証の利用率に応じて3段階の点数に分かれており、各医療機関は社会保険診療報酬支払基金から毎月報告されるマイナ保険証の利用率が算定基準を満たせば、別途届出を行う必要はない。
 加算1と加算2の算定には、「マイナポータルの医療情報等に基づき、患者からの健康管理に係る相談に応じること」が新たな条件として追加された。

「医療情報取得加算」見直し
 オンライン資格確認等の体制整備を評価する点数であった「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」は、令和6年6月より診療情報等を取得して活用することに対する「医療情報取得加算」に変更された。
 現行の保険証廃止に伴い、マイナ保険証への一体化が進むことから、同年12月からは加算区分がなくなり一律1点に変更となる。

※その他の施設基準等は本レポートNo.266を参照
 ( https://www.city.fukuoka.med.or.jp/blog/7117/

※厚生労働省ホームページをもとに作成

○外来診療の機能分化・強化
 今改定では特定疾患療養管理料の対象疾患から生活習慣病の3疾患(脂質異常症、高血圧、糖尿病)が除外され、「生活習慣病管理料」再編されることになった。
 従来の検査等が包括されるのが「生活習慣病管理料(Ⅰ)」、除外される3疾患の受け皿として「生活習慣病管理料(Ⅱ)」が新設され、算定には「療養計画書」の交付、「患者同意と署名」が必要となる。

※厚生労働省ホームページをもとに作成

●福岡市医師会の取組み

 今改定は算定要件や施設基準等がより一層複雑で難解になっていることから、本会では会員向けに分かりやすく伝えるため、次の説明会等を計3回開催した。

 <福岡市医師会主催 診療報酬改定に関する説明会等>

名称・日時 内容
医療・介護保険診療支援講演会
<令和6年3月9日(土)17時>
「令和6年度診療報酬改定について」
  中央社会保険医療協議会委員
  日本医師会副会長
   茂松 茂人 先生
診療報酬改定説明会
<令和6年5月14日(火)19時>
「診療所における2024年診療報酬改定の対応策
 ~ベースアップ評価料、生活習慣病管理料等を中心に~」
  株式会社リンクアップラボ代表取締役
   酒井 麻由美 氏
診療報酬算定に係る研修会
<令和6年10月12日(土)16時>
1.「令和6年度診療報酬改定について」
    中央社会保険医療協議会委員
    日本医師会常任理事
     長島 公之 先生
2.「追加発言」
    九州大学大学院医学研究院医療情報学講座教授
     中島 直樹 先生

※講演動画および当日資料は福岡市医師会 会員専用ページに掲載
 ( https://www.city.fukuoka.med.or.jp/members/index-iryou/kaitei2024/ )

医療情報室の目

★医政なくして医療なし

 令和6年度診療報酬改定は上述した内容以外にも、非常に多岐に亘る改定が行われている。今改定で大きなテーマとして位置付けられたのが賃金上昇・物価高騰への対応で、初診料・再診料や入院基本料の引上げ、「ベースアップ評価料」の新設という形で対処されている。「ベースアップ評価料」については事務手続きや報告書類提出等が煩雑なため、診療所を中心に届出は進んでおらず、今後の改定で点数自体の廃止を懸念する声もある。ただし、介護保険施設では10年余り前から「介護職員処遇改善加算」等による処遇改善が図られ、現在に至るまで維持されている状況があり、単純に廃止されることは考えにくく、日本医師会では今後の継続のためにも積極的な算定を呼びかけている。
 生活習慣病関連の診療報酬は大幅に見直しされ、特に外来で算定が多い「特定疾患療養管理料」の対象疾患から脂質異常症、高血圧、糖尿病が除外されたことは診療所に大きな影響を与えている。背景には財務省が診療所の経営が良好との認識から報酬の引き下げを要望していることがあげられるが、日本医師会はコロナ禍で一番落ち込みが激しかったデータをもとに比較すること自体、ミスリードである旨の反論をしており、中医協で激しい議論が行われた結果、今回の改定内容に至っている。
 医療政策における重要な案件は政治の中で決まっており、厚労大臣と財務大臣の予算折衝では改定率だけでなく使用用途まで決められ、中医協の裁量は縮小化している。この傾向が変わるとは想定しづらく、今後も厳しい改定が予測される診療報酬において、我々医療従事者の意見を主張し、安心・安全で質の高い地域医療を安定的に継続して提供するためには、医療が置かれている厳しい現状や医療政策への更なる理解を国会議員や地元選出の議員などに広く訴える政治活動が欠かせない。来夏予定の参議院議員選挙に向け、各医療従事者が現状の医療と政治の関わりを広く理解し、協力していくことが求められる。

編集
福岡市医師会:担当理事 江口 徹(情報企画・広報・地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)