医療情報室レポート No.257 特集 :「かかりつけ医」について
2023年1月27日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集:「かかりつけ医」について
新型コロナウイルスの感染拡大を契機に「かかりつけ医」の役割や重要性が改めて注目されたが、「かかりつけ医機能」の定義は現在、医療法の施行規則に「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う医療機関の機能」と定められており、政府は「かかりつけ医機能」として具体性を求める制度整備を進めている。
令和4年6月の骨太の方針2022では、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」ことが閣議決定され、厚労省は7月に第8次医療計画等に関する検討会を開催、「かかりつけ医機能」についての議論を開始した。12月には全世代型社会保障構築会議で報告書が取りまとめられ、それを受け、社会保障審議会医療部会では「かかりつけ医機能」の定義を医療法に明記した上で「かかりつけ医機能報告制度」を新設、国民に医療機関の機能を情報提供する「医療機能情報提供制度」を拡充する案が示されている。
本年1月の通常国会に医療法改正案が提出され、今後「かかりつけ医機能」に関する法改正が進められる予定である。
今回は、日本医師会、財務省や政府が提言する「かかりつけ医機能」を特集し、「かかりつけ医」の役割について考える。
●日本医師会が提言する「かかりつけ医機能」
○日本医師会のこれまでの取組み
日本医師会は平成25年8月に「かかりつけ医」を下のとおり定義し、また、平成28年4月には「日医かかりつけ医機能研修制度」を創設、これまでに延べ約5万6,000人の医師が参加するなど、一貫して「かかりつけ医」の普及に取り組んできた。
「かかりつけ医」とは(定義) なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師 |
※日本医師会・四病院団体協議会合同提言
<日医かかりつけ医機能研修制度> (平成28年4月より実施) | |||
目的 | 今後のさらなる少子高齢社会を見据え、地域住民から信頼される「かかりつけ医機能」のあるべき姿を評価し、その能力を維持・向上するための研修 | ||
実施主体 | 本研修制度の実施を希望する都道府県医師会 | ||
研修内容 | ※①~③を満たした場合、修了証書が交付(有効期間3年) | ||
①基本研修 | 日本医師会生涯教育認定証の取得 | ||
②応用研修 | 日医が行う中央研修、関連する他の研修会、都道府県・郡市区医師会が主催する研修等の受講 ※規定の座学研修を10単位以上取得 | ||
③実地研修 | 社会的な保健・医療・介護・福祉活動、在宅医療、地域連携活動等の実践 ※規定の活動を2つ以上実施(10単位以上取得) | ||
修了者数 | R1年度修了者:2,501名(福岡県201名)、R2年度修了者:1,547名(福岡県366名)、R3年度修了者:1,224名(福岡県158名) |
※日本医師会ホームページより
○「かかりつけ医」、「かかりつけ医機能」の考え方を公表
日本医師会は令和4年4月20日、「かかりつけ医」に関する考え方として「国民の信頼に応えるかかりつけ医として」を公表した。(下表参照)
また、令和4年11月2日には、「かかりつけ医機能」の制度整備の考え方として「地域における面としてのかかりつけ医機能~かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて~(第1報告)」を公表した。(下表参照)
「かかりつけ医」について |
①「かかりつけ医」は患者が医師を表現する言葉 |
②患者ごとに「かかりつけ医」は異なり、患者にふさわしい医師が誰かを数値化して測定することはできない |
③患者が信頼できる医師が「かかりつけ医」である |
※日本医師会「国民の信頼に応えるかかりつけ医として」より
「かかりつけ医機能」の制度整備について | |
①政府には「医療機能情報提供制度」を国民に分かりやすい内容に改め、フリーアクセスにおいて国民が適切な医療機関を自ら選択できるよう支援を求める | |
②医療機関は自院が持つ機能を磨いて縦糸を伸ばすとともに、地域における他の医療機関と連携を通じ横糸を紡ぐことで、「地域における面としてのかかりつけ医機能」を発揮 | |
③感染症発生等有事への対応として、地域医療体制の中で外来診療や在宅療養等を担う医療機関をあらかじめ明確化し、平時に受診している医療機関がない者を含め、国民が必要な時に確実に必要な医療を受けられるようにする |
※日本医師会「地域における面としてのかかりつけ医機能~かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて~(第1報告)」より
●財務省や健康保険組合連合会が提言する「登録制」
新型コロナウイルスでは発熱患者の診療に対応する「診療・検査医療機関」に患者が殺到し、顔なじみの「かかりつけ医」の診察が受けられない、また、「かかりつけ医」を持たない若者層では感染が拡大したとの報道があったが、「かかりつけ医」が「診療・検査医療機関」でなければ発熱診療はできず、若年者に感染拡大したのは、別の理由であり、明らかなフェイクニュース、情報操作が行われた。
令和4年5月に財務省財政制度等審議会が公表した「春の建議」では、かかりつけ医の要件を法制上明確化し、利用希望者による事前登録や医療情報登録を促す仕組みの導入を提言、令和4年11月に健康保険組合連合会(健保連)が公表した「かかりつけ医の制度・環境の整備」では、国民による任意の登録制度の創設が提言された。
新型コロナウイルスにより生じた問題への対応策として提言されたものだが、過去にも医療費抑制の手段としてこのような「登録制」が提言されたことがあることから、今回も患者の受診制限や診療報酬の包括払い導入などにつながることが懸念される。日本医師会は「かかりつけ医機能の要件を法制上明確化することが医療費抑制のために国民の受診の門戸を狭めることに繋がるのであれば反対」との姿勢を示している。
●「かかりつけ医制度」の国際比較、「登録制」の問題点
○日本と諸外国の「かかりつけ医制度」の比較
「登録制」導入の際、海外の事例が引き合いに出されることがあるが、例として多く取り上げられるのはイギリスの国民皆保険制度における「かかりつけ医」(GP:General Practitioner)制度である。イギリスでは患者毎に登録した「かかりつけ医」(GP)を必ず最初に受診しなければならず、必要と判断された場合に大きな病院で専門的な治療を行う流れとなっている。
日本と諸外国の「かかりつけ医制度」の違いは下表のとおりだが、保険制度や医療へのアクセス、自己負担額等の決まり方等それぞれの国により違いが多く、各国の文化や風土も異なるため、一概に比較して「かかりつけ医制度」導入の解決策を見出すことは適切ではない。
保険制度 | 外来患者自己負担 | 「かかりつけ医制度」について | |
イギリス | 9割を占める公的(税財源)および1割の民間自費医療サービスが両立 | 公的は原則無料 (処方箋料等の少額負担あり) |
登録したかかりつけ医(GP)のみ受診可 |
アメリカ | 公的な医療保険は「メディケア」と「メディケイド」のみ | 保有する保険により年間免責金額、定額負担、負担割合等が異なる | 保険毎に受診可能な契約医あり |
フランス | 公的皆保険 (民間保険は二階建て部分をカバー) |
3割負担(償還式) ※かかりつけ医を通さずに専門医を受診した場合は、7割負担 |
かかりつけ医の登録制度はあるが、紹介状なしに他の医師を受診することができる |
ドイツ | 皆保険。公的(9割)および民間医療保険(1割)の両立 (公的保険は選択可能) |
原則無料(2013年より自己負担廃止) かかりつけ医以外の受診では10ユーロの負担 |
法的義務はないが、9割がかかりつけ医を持つ (家庭医中心診療への参加は人口の5%程度) |
スウェー デン |
税方式による公営の保険・医療サービス | 料金は広域自治体(ランスティング)が独自に決定。 自己負担額の上限あり |
地区診療所を家庭医として登録 |
日本 | 公的皆保険 | 原則3割負担 (自己負担額の上限あり) |
無し |
※日本医師会ホームページより
○「登録制」導入による問題点
イギリスでは「かかりつけ医」(GP)に診察予約を入れてから受診まで2~3週間かかり、さらに「かかりつけ医」(GP)の紹介から専門医の治療を受けるまでの期間も1か月以上かかると言われている。日本でも「かかりつけ医の登録制」が導入されれば、現在の「フリーアクセス」が制限され、受診の順番待ち、疾病増悪や重症化が起きる可能性が大いにある。
●厚労省が示した「かかりつけ医機能」
令和4年11月28日、厚労省社会保障審議会医療部会ではかかりつけ医機能が発揮される制度整備として、「かかりつけ医機能報告制度の創設」と「医療機能情報提供制度の拡充」の2つを大きな柱とする骨格案を示し、本年1月の通常国会に医療法改正案を提出する方針を示した。
制度整備を通じ、国民や患者は多様な医療ニーズに応じて、かかりつけ医機能を有する医療機関を選択できるような環境整備、医療機関は地域のニーズや他の医療機関との役割分担や連携を踏まえつつ、自院が担うかかりつけ医機能の内容を強化する。
前述した財務省や健保連が主張するかかりつけ医の認定制や登録制には触れられてはおらず、日本医師会の考え方と一致する部分が多い内容となっている。
<かかりつけ医機能が発揮される制度整備(骨格案)>
項目 | ①「かかりつけ医機能報告制度」の創設 | ②「医療機能情報提供制度」の拡充 |
内容 |
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開始時期 (予定) |
令和7年度をめどに医療機関からの報告受付を開始 (報告例:外来医療の提供、入退院時の支援、休日・夜間の対応、在宅医療の提供、介護サービス等との連携) |
現在、都道府県毎の「医療機能情報提供制度(※)」を令和6年度に全国統一のシステムを導入 ※ふくおか医療情報ネット https://www.fmc.fukuoka.med.or.jp/ |
※継続的管理が必要な慢性疾患を持つ高齢者が希望する場合は、医療機関がかかりつけ医機能として提供する医療の内容を書面交付などを通じて説明
※厚労省社会保障審議会医療部会資料をもとに作成
医療情報室の目
★「かかりつけ医」の役割
コロナ禍という「有事」への対応を巡り、「かかりつけ医」の制度整備に関する議論が開始されているが、「かかりつけ医機能」は「平時」における患者への対応を前提としたもので、平時と有事を混同して議論を進めるのではなく、区別して考えることが必要である。若年層は基礎疾患などがなく、そもそも「かかりつけ医」を持たない人が多いことも今回の制度整備の議論開始の一因とされているが、日本の医療保険制度の優れた特徴である「フリーアクセス」において、「かかりつけ医」はあくまで患者が選ぶもので、予め誰かによって決められるものではなく、コロナ禍をきっかけとして議論が進められることは少々乱暴なように感じられる。
日本の診療所の多くは医師一名体制で業務の代替がきかず、且つ、限られたスペースの中で感染症対策として動線を分離することも難しく、コロナ禍において医療機関は可能な範囲で通常診療と新型コロナへの対応、そしてワクチン接種を行ってきた。海外に目を向けてみると、イギリスなど「かかりつけ医」の登録制があるからといって、新型コロナの感染者数や死亡者数を上手く抑えたとは言えず、「かかりつけ医機能」を巡る議論は日本だけではなく世界各国で共通の課題であり、それぞれの国の医療制度や背景などに応じた議論が欠かせない。
「かかりつけ医」を登録制にし、受診を抑制することが単純に医療費を削減できるわけではなく、前述のとおり受診の順番待ちや疾病増悪に直結する恐れがあることから、日本の医療の良さである「フリーアクセス」を生かしたうえで、「かかりつけ医機能の制度整備」を行うことが不可欠である。
従来より日本医師会は独自の研修制度創設など「かかりつけ医」の普及に取り組んでおり、医師が「かかりつけ医機能」を強化する機会を設けてきた。また、「かかりつけ医」を補完するため、昨年の診療報酬改定では病院側の対応として、「外来機能報告の開始」、「紹介受診重点医療機関の新設」や「定額負担の増額」が行われている。診療所や病院などの関係機関が連携して「地域医療を面として支える」ことも今後一層求められてくるが、新たな「有事」の際にも国民へ必要な医療を提供するために、地域での自院の立ち位置を見定め、その機能を広げ、更なる役割分担を進めていかなければならない。そのために日本医師会や地域医師会が果たすべき責務はますます大きなもので、我々としても地域の医療提供体制整備に取り組んでいく所存である。
編集
福岡市医師会:担当理事 牟田 浩実(情報企画・広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
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(事務局担当 情報企画課 上杉)