医療情報室レポート No.255 特集 :新型コロナウイルス感染症への対応~その15~
2022年11月25日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510
特集 : 新型コロナウイルス感染症への対応~その15~
当レポートNo.252(新型コロナウイルス感染症への対応~その14~)発行時点(令和4年5月27日)では、新型コロナウイルスの感染者は緩やかな減少傾向となっていたが、今年7月には国内の感染が急拡大し、「第7波」が発生した。感染力の強いオミクロン株の派生型「BA.5」の広がりが原因とされ、8月19日には1日あたりの感染者が全国で26万人を超え、過去最大規模の感染拡大となった。
9月に入ると感染者は減少傾向となり、「第7波」は徐々に収束の傾向が見られたが、今月11月に感染者数が再び増加に転じる傾向が見られ、「第8波」が本格化の兆しを見せている。
今年、南半球では既にインフルエンザが流行した国もあることから、今冬は新型コロナとインフルエンザの同時流行が懸念されている。新型コロナワクチン接種については、9月より従来株とオミクロン株に対応した「2価ワクチン」の接種が開始されたが、全人口の接種率は約15%と低調な出足となっている。(令和4年11月25日時点)
今回は、第7波の感染状況やインフルエンザ発生状況との比較、福岡市のワクチン接種、第8波への備えなどについて特集する。
●第7波の感染状況
○福岡県内の感染状況
オミクロン株「BA.5」により生じた「第7波」により、福岡県内の新規感染者は8月19日に過去最多の15,723人(市内4,495人)が確認され、「病床使用率」は8月11日に78.3%(1,431床使用)、「宿泊療養施設稼働率」は7月19日に48.2%(1,173室使用)とピークを迎えた。(11月現在の確保病床数は2,024床(うち重症病床確保数217床)、宿泊療養施設は2,008室(10施設・市内6施設))
県独自の「福岡コロナ警報」については、「特別警報」を9月13日に解除し「警報」に移行、10月5日には「警報」も解除され、7月から発動していた「福岡コロナ警報」は3か月ぶりに解除された。
○全数届出の見直し
「第7波」の感染者増により医療機関や保健所の届出業務が逼迫していたことから、政府は8月24日に緊急避難措置として自治体判断で患者届出の範囲を高齢者や入院を要する者などに限定可能にすると発表し、九州では佐賀、鹿児島(全国9県)が導入した。
しかし、見直しの判断が自治体に委ねられたこともあり、困惑の声が大きく、政府は9月26日から全国一律で全数届出を見直し、届出の対象を①65歳以上、②入院を要する者、③重症化リスクがあり、治療薬の投与または酸素投与が必要と医師が判断する者、④妊婦に簡略化した。
届出対象外の軽症者や無症状者等が症状悪化しても、迅速に対応できるよう、各自治体では「健康フォローアップセンター」を開設している。
※福岡県「健康フォローアップセンター」
( https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/follow-up-center.html )
●新型コロナとインフルエンザの同時流行
過去2年間、国内でインフルエンザの流行は見られなかったが、今冬は新型コロナとインフルエンザの同時流行が強く懸念されている。
日本と季節が逆である南半球のオーストラリアでは、今年に入ってから10月までにインフルエンザの感染者数が約22万人超、死者も300名以上、ピークも例年より2か月ほど早まっており、日本でも「水際対策などの緩和で人の往来が増加」や「インフルエンザの免疫ある人が少ない」ことから、年末年始に向け、同時流行が起きる可能性もある。
厚労省統計(令和4年11月7日~11月13日)では、全国の定点医療機関から報告があったインフルエンザの患者数は407人(福岡県4名)と、前年同週の28人から約14倍以上に増えている。
日本感染症学会では例年通りのインフルエンザ対策として、「インフルエンザワクチン接種(特に65歳以上の高齢者、5歳未満の子ども、心臓や肺などに慢性の持病のある方、高度の肥満の方など)」や、他の呼吸器感染症と同様、「手洗い、マスク着用、咳エチケット」といった一般的な感染予防対策を呼びかけている。
●新型コロナワクチン接種
新型コロナワクチンについては従来株とオミクロン株に対応した「オミクロン対応2価ワクチン」の接種が進められ、国内では従来型ワクチンの初回接種(1・2回目)を完了した12歳以上の全ての人が対象となる。9月20日からはオミクロン株「BA.1」対応のワクチン(ファイザー社製、モデルナ社製)が接種開始、10月13日からは「BA.5」対応のワクチン(ファイザー社製)接種が開始されている。
厚労省は10月21日、前回接種から5か月としていた間隔を3か月に短縮し、できる限り年内に接種を終了するように呼びかけているが、「オミクロン対応2価ワクチン」の全人口に対する接種率は15%となっている。(令和4年11月25日時点)
接種率が伸びない要因としては、副反応による忌避感やオミクロン株による感染が軽症であるために接種を希望する方が少ない。また、頻回のワクチン接種によるワクチン接種疲れやワクチン接種間隔が5か月から3か月になるなど政府方針の混乱からくる接種への不信感などが考えられる。
<福岡市 新型コロナワクチン接種体制 (令和4年11月25日現在)>
対象者 | 初回接種(1・2回目) | 追加接種(3~5回目として1人1回接種) | |||||
会場 | 使用ワクチン | 1回目と2回目の間 | 会場 | 使用ワクチン | 前回接種との間隔 | ||
12歳以上 | 福岡市役所1階 (12~15歳は地域の小児科でも可) |
従来型ワクチン (ファイザー社製) |
3週間 | ①地域のクリニック(約800箇所) ②集団接種会場(8箇所) |
オミクロン株対応2価ワクチン (ファイザー社製) ※BA.1対応型、BA.4-5対応型 |
3か月 |
対象者 | 会場 | 使用ワクチン | 初回接種 | 追加接種 | 備考 |
1回目と2回目の間 | 2回目と3回目の間 | ||||
5~11歳 | ①地域のクリニック(約60箇所) ②集団接種会場(1箇所) |
小児用ワクチン (ファイザー社製) |
3週間 | 5か月 | ・「初回接種」として2回接種 ・3回目は「追加接種」 |
対象者 | 会場 | 使用ワクチン | 初回接種 | 備考 | |
1回目と2回目の間 | 2回目と3回目の間 | ||||
6か月~4歳 | ①地域のクリニック(順次開始) ②小児科を有する基幹病院(6箇所) |
乳幼児用ワクチン (ファイザー社製) |
3週間 | 8週間 | 「初回接種」として3回接種 |
※詳細は福岡市ホームページを参照
<福岡市における新型コロナウイルスワクチンの接種について>
https://www.city.fukuoka.lg.jp/hofuku/coronavaccine/wakutin.html
●第8波への備え
○同時流行への備え
前述のとおり全数届出の見直し等により、医療機関の負担は一部軽減となったものの、今冬、新型コロナウイルス感染症の「第7波」を上回る「第8波」が発生する可能性に加え、インフルエンザも同時に流行し、多数の発熱患者が生じることが懸念されている。
厚労省は「新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース」を立ち上げ、「重症化リスクの高い人への医療提供を重視した外来受診・療養の流れ」を示した。(下図参照)
福岡県では同時流行に備え、発熱外来の逼迫時、「福岡コロナ特別警報」の発令を目安に、自宅療養者が医師の診療や解熱剤処方等を24時間受診可能な「オンライン診療センター」を開設する方針を表明している。
また、令和4年11月22日 国内初の新型コロナウイルス経口薬「ゾコーバ」(塩野義製薬)が軽症者も対象に緊急承認され、今後その効果が期待される。
○福岡市医師会の取組み
本会では、発熱外来診療体制のさらなる強化に取り組んでいる。「診療・検査医療機関」の指定申請への協力を会員に呼びかけと併せ、福岡市の外来医療体制について、行政と協議を重ねている。
医療情報室の目
★「診療・検査医療機関」の更なる拡充
厚労省は、今冬の感染拡大について、新型コロナが1日45万人、インフルエンザが1日30万人規模で同時流行し、ピーク時には1日75万人の患者が生じる可能性を想定しており、多数の発熱患者がかかりつけ医等の地域で身近な医療機関で適切に診療や検査を受けられるよう、地域の実情に応じた医療提供体制の整備が進められている。
第7波では発熱患者等の診療や検査を行う「診療・検査医療機関」に患者が集中し、外来医療が逼迫したため、第8波の感染拡大による医療崩壊を防ぐには「診療・検査医療機関」の拡充は必要不可欠で、地域医師会にはその支援やサポートが求められている。同時流行が起きた際、「診療・検査医療機関」が重要な役割を担うことになるため、日本医師会は各地域の医師会に対し、地域を取りまとめて「診療・検査医療機関」の増とその公表率を100%に近づけることを呼びかけている。10月26日時点の福岡県の「診療・検査医療機関」は1,939機関(福岡市内約550機関)、そのうち県のホームページ等で医療機関名を公表可としているのは94%(1,818機関)となっている。
インフルエンザについては検査や診断、治療法が従来より確立されており、新型コロナウイルスの医療用抗原定性検査キットで陰性が判明した場合には、コロナ以外の診断と治療のために医師による対面診療が必要となる。また、医療機関にはかかりつけの患者に発熱が見られる場合、「診療・検査医療機関」に限らず診療して、第7波以上の医療逼迫につながらないよう対応が求められている。
オミクロン対応2価ワクチンは接種間隔が短縮化されており、インフルエンザとの同時接種も実施可となっている。年末年始に向け、今後更なる社会経済活動の活発化により接触機会が増加すれば感染が一層広まる可能性があるので、引き続き手洗いやマスク着用といった基本的な感染対策の徹底に加え、コロナとインフルエンザのワクチン接種を推進していくことが、今現在できる感染拡大防止の対策である。
国がポストコロナ、ウイズコロナに向けて経済を回復するということで、全国旅行支援や渡航制限緩和を行っている。それを否定するものではないが、その結果としての感染再拡大も当然であろう。しかし、医療者のみが「診療・検査医療機関」を拡充して対応するのもおかしいのではないだろうか。診療報酬上の算定制限の緩和やインセンティブを求めたい。順番が逆のような気がする。
編集
福岡市医師会:担当理事 牟田 浩実(情報企画・広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。
(事務局担当 情報企画課 上杉)