医療情報室レポート No.252 特集 :新型コロナウイルス感染症への対応~その14~

2022年5月27日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集 : 新型コロナウイルス感染症への対応~その14~

 新型コロナウイルスの新規感染者数は「第6波」がピークを迎えた令和4年2月以降、全国で緩やかな減少傾向が続いていたが、4月に入ると人口が比較的少ない県を中心に過去最多を更新する感染者が発生するなど、大都市圏と地方で異なる感染状況を見せている。3月下旬に「まん延防止等重点措置」が全面解除されたため、今年のゴールデンウィークは3年ぶりに行動制限のない大型連休となり、各地で人出が大幅に増加したことで感染の再拡大が懸念されたが、福岡県においては爆発的な感染には至っていない。
 年代別の感染割合としては若年層が中心となっており、20代以下が全体の約半数を占める一方、ワクチンの3回目接種を終えた20代は約3割に留まっている。若年層へのワクチン接種促進が現在の課題となっており、政府は改めて3回目ワクチン接種の効果や副反応に関する説明や啓発を進めている。
 今回は、現在の感染状況の概況や福岡市のワクチン接種、経口治療薬や後遺症への対応の他、令和4年度診療報酬改定による影響などについて特集する。

●感染状況の概況

○令和4年ゴールデンウィーク後の感染状況
 厚生労働省は、本年のゴールデンウィーク後の1週間で新型コロナウイルスの新規感染者は減少傾向で、療養者数や重症者数等も減少が継続と分析している。
 福岡県内でも懸念された大幅な感染拡大には至っていないものの、連日1,000~2,000人台の感染者が確認されており、県独自の「福岡コロナ警報」は依然発令を継続している。
 年代別では20代が増加、その他の年代で横ばいまたは減少が続いており、若年層の感染増加や高齢者の感染状況、病床使用率など医療への影響を引き続き注視していく必要がある。
 福岡県内における現在の確保病床数は1,681床(うち重症病床確保数217床)、宿泊療養施設は2,468室12施設・市内8施設)である。(令和4年5月27日時点)

○オミクロン株の新系統(XEなど)への懸念
 厚生労働省は4月下旬、オミクロン株の派生型で「BA.1」よりも感染力が強いとされる「BA.2」への置き換わりが全国で約9割まで進んだことを公表した。さらに、「BA.1」「BA.2」が組み合わさった「XE」と呼ばれる新系統や、南アフリカで置き換わりが進む「BA.4」「BA.5」が国内の空港検疫で確認されており、「XE」「BA.2」と比較すると感染者の増加する速度が12.6%速いと試算されているため、今後市中での感染拡大が懸念されている。(オミクロン株の派生型「BA.3」は検出数が少なく、詳しい性質は不明)

●新型コロナワクチン接種

○福岡市の新型コロナワクチン接種体制
 新型コロナワクチンは若年層への3回目接種が進まず、20~30代では約3割と低迷し、接種率が低い年代で感染者が多い傾向が見られている。福岡市では若年層の接種を一層促進するため、利便性の高い市役所内に「臨時特設会場」を4月9日より設置、接種枠の多くが埋まったことから、5月以降は開設時間と接種枠を拡大して実施している。
 また、ワクチン接種の予約状況等を踏まえ、集団接種会場を市内8箇所から2箇所に集約したものの、「高齢者施設への出張接種」「在宅療養者を対象にした訪問接種」など希望者がスムーズに接種可能な体制づくりに取り組んでおり、本会でも引き続き集団接種会場への医師派遣を行っている。

<福岡市 新型コロナワクチン接種体制 (令和4年5月27日現在)

  会場 開設時間 使用ワクチン 接種対象者等
集団接種 中央体育館
(中央区赤坂)
11~21時 【月~土曜】モデルナ社製 ○18歳以上(3回目)
○12歳以上(1・2回目)
【日曜】ファイザー社製 ○12~17歳(3回目)
○12歳以上(1・2回目)
ももち体育館
(早良区百道)
11~17時
※金曜は21時まで
【月~土曜】モデルナ社製 ○18歳以上(3回目)
【日曜】ファイザー社製 ○5~11歳(1・2回目)
市役所1階ロビー
※臨時特設会場
平日:14~21時
土日祝:11~18時
ファイザー社製 ○16歳以上(1・2・3回目)
個別接種 市内800機関 (各医療機関による) ファイザー社製 ○18歳以上(3回目)
市内300機関 ○12~17歳(3回目)
市内70機関 ○5~11歳(1・2回目)

※福岡市ホームページをもとに作成

○4回目の追加接種 6月1日開始
 新型コロナワクチンの4回目接種は従来の3回目接種と異なり、対象を「60歳以上」「基礎疾患がある18歳以上」に限定して行われる。
 4回目接種は一定程度の重症化予防効果が見込まれる一方、感染予防効果は約2ヵ月と長く続かないことから、厚生労働省では4回目接種の目的を「重症化予防」と位置付けている。しかし、最前線で働く医療従事者等は感染リスクがあるにも関わらず、公費負担対象外とされ、自治体からは希望する医療従事者等には4回目接種を行うべきとの声も上がっている。
 接種間隔は「3回目接種から5ヵ月後」であり、福岡市では6月1日より4回目接種を開始予定で、医師から重症化リスクが高いと認められた方も対象となる。
※18歳以上60歳未満で基礎疾患を有する方の接種券詳細は、福岡市ホームページを参照
https://www.city.fukuoka.lg.jp/hofuku/coronavaccine/wakutin.html#4kisotou

○ワクチン承認、国内4種類目
 厚生労働省は4月19日、国内では4種類目となるノババックス製のワクチンを特例承認した。
 これまでのワクチンと異なり、B型肝炎を始め幅広く使用されている「組み換えタンパク」と呼ばれる種類で、副反応の発生頻度が低く、従来のワクチン接種でアレルギー反応が出た方への使用などが想定されている。
 また、国内企業が開発するワクチンも治験が進んでおり、今後ワクチンの選択肢が増えることで、副反応を懸念する若年層に対しても接種が進むことが期待される。

<新型コロナワクチンの開発状況>

企業名 ワクチンの種類 備考
海外 ファイザー(米) メッセンジャーRNA   2021.2承認、対象:5歳以上(3回目接種は12歳以上)
モデルナ(米) メッセンジャーRNA   2021.5承認、対象:12歳以上(3回目接種は18歳以上)
アストラゼネカ(英) ウイルスベクター   2021.5承認、対象:原則40歳以上
ノババックス(米) 組み換えタンパク   2022.4承認、対象:18歳以上
国内 塩野義製薬 組み換えタンパク   最終段階の臨床治験中
KMバイオロジクス 不活化ワクチン   最終段階の臨床治験中

※厚生労働省資料等をもとに作成

●経口治療薬、後遺症への対応

○経口治療薬の利用促進に課題
 国内の製薬会社が開発した新型コロナウイルスの軽症者向け経口治療薬は、2月下旬に厚生労働省へ承認が申請されているが、効果を示すデータが不十分と審査に慎重な意見があり、3ヵ月経過した現在も承認には至っていない。
 医薬品の迅速な承認を可能とする制度を盛り込んだ「改正医薬品医療機器法(薬機法)」が5月13日に成立したため、今後、ワクチンや治療薬の開発等における承認のスピード感が期待される。
 既に承認された経口治療薬については、いずれも対象が「重症化リスクが高い患者」に限られる等の理由から、投与実績は低調である。

<新型コロナウイルスの軽症者向け経口治療薬>

薬剤名(販売名) 企業名 投与実績
(R4.5.15時点)
モルヌピラビル(ラゲブリオ) メルクなど 約17万7,000人
(2021.12承認)
ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッドパック) ファイザー 約7,000人
(2022.2承認)
S-217622 ※販売名未定 塩野義製薬 ※承認申請中

※厚生労働省資料等をもとに作成

○厚労省、後遺症に関する手引き作成
 厚生労働省は新型コロナウイルス感染後の「罹患後症状(後遺症)」について、新しい診療の手引き「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第1版)」を4月28日に公表した。( https://www.mhlw.go.jp/content/000935241.pdf
 この手引きは昨年12月に示された「暫定版」が改訂され「第1版」として作成されたもので、医師向けに症状毎の診療ポイントや社会復帰に向けた医療的な支援などがまとめられている。  

●令和4年度診療報酬改定の影響

 医療現場では前述の新型コロナウイルス対策を行っているが、4月に行われた2年毎の「診療報酬改定」によるこれからの外来医療への影響について、下表のとおり考察した。

項目 メリット デメリット
繰り返し利用可能な「リフィル処方箋」の導入
  • 患者の通院回数の負担減
  • 受診回数減による医療費削減
  • 医師による健康観察の機会が減り、疾病増悪症状見落とし等のリスクが増大
初診からの「オンライン診療」恒久化
  • 患者の通院にかかる時間負担減
  • 患者は好きな時間や場所で受診可能
  • 医師は触診・打診・聴診等が実施できず、対面診療に比べ、患者から得られる情報に限界があり、上記同様、疾病増悪等のリスク有
「マイナンバーカードの健康保険証利用」
  • 患者は過去の服薬状況等が確認可能
  • 医療機関は患者の医療保険情報等が瞬時に確認可能
  • 導入後のランニングコストは医療機関の負担
  • マイナ保険証の利用登録件数が低調(カード交付率44%のうち、利用登録完了は15.5% ※R4.5.15現在)

 

※各項目の詳細な内容は本レポートNo.251を参照

医療情報室の目

ワクチン接種には柔軟な対応が必要

 新型コロナウイルスの新規感染者は緩やかな減少傾向が続き、人の流れが増加したゴールデンウィーク後の大幅な感染拡大もみられなかった。その大きな要因は従来株と比較すれば軽症や無症状といった「オミクロン株の特性」によるものが考えられるが、今後、再び「デルタ株」のような病原性の高い変異株が現れれば、「第6波」を超える爆発的な感染者増と自宅療養者の急増による医療提供体制の逼迫を招く可能性がある。ウイルスは常に変異を繰り返すことを忘れずに日常を過ごしていきたい。
 新型コロナワクチンの3回目接種は若年層への接種が低調で、期限切れを迎えるワクチンを廃棄せざるを得ない自治体も複数生じている。ワクチンの供給割合がファイザー社製4割、モデルナ社製6割であるにも拘わらず、副反応などの懸念からモデルナ社製が敬遠される傾向があり、自治体単位では対応できる量ではないために国へ融通を求める声もあがっている。
 海外ではワクチン接種により、感染後の「後遺症」を予防する効果を示す研究結果も報告されている。4回目接種が開始される今、政府にはワクチンの効果に関する丁寧な情報発信は無論のこと、効率的に接種を行う体制の構築も欠かせないと考える。
 医療従事者への4回目接種は今回、公費負担対象外とされたが、重症化リスクのある高齢者と接する機会もあり、他国では医療従事者を公費対象とする国もあることから、政府は医療従事者を一律に対象外とするのではなく、医療現場のリスクに応じた柔軟な対応を求めたい。

便利と危険は表裏一体の関係

 今回の診療報酬改定で新設された項目は、上記特集のように患者には利便性向上などの良い面がある一方、健康被害が生じる危険性を併せ持つことを認識し、安易に活用が広がらないよう留意が必要と考える。利便性を優先するがあまり、疾病の増悪や発見の遅れに繋がることが無いよう、「かかりつけ医」へ月に一度でも定期的に受診して自身の健康状態を把握・改善していくことが、長期的には有効であることを多くの方へ今一度理解を求めたい。
 特に、「リフィル処方箋」導入の件では、医師の処方権、患者の健康管理や観察を薬剤師に委ねるという医師の根幹に関わる大きな問題であることは強く指摘したい。

編集
福岡市医師会:担当理事 立元 貴(情報企画担当)・牟田浩実(広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)