医療情報室レポート No.251 特集 :新型コロナウイルス感染症への対応~その13~

2022年3月25日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集 : 新型コロナウイルス感染症への対応~その13~

 1月から続く新型コロナウイルスの「第6波」は収束の兆しが見えず、新規感染者数は下げ止まりの状況が続いている。従来株より重症化リスクが低いオミクロン株の特性を踏まえ、31都道府県に適用されていた「まん延防止等重点措置」は3月7日に福岡県を含む13県で解除、2週間の延長を経て、3月22日には首都圏や大阪などの18都道府県でも解除され、約2ヵ月半ぶりの全面解除となった。
 政府は新型コロナワクチンの3回目接種について「1日100万回」を目標に掲げ、1・2回目とは異なるメーカーのワクチンを打つ「交互接種」の有効性や安全性を広報するなど接種加速に向けた取組みを行うものの、政府が用意するワクチンの種類の偏りや、接種の実務を担う各自治体にも負担がかかっていることもあり、3回目接種は思うようには進んでいない。
 「第6波」では学校や保育施設、高齢者施設でのクラスターが多発し、高齢者の死者に加え、子どもにも感染が広がり、感染力が強いオミクロン株の影響で感染減少は鈍化している。
 今回は、第6波の感染拡大や福岡市のワクチン接種、経口治療薬や後遺症への対応の他、直前に迫る令和4年度診療報酬改定の概要などについて特集する。

●第6波の感染拡大

○まん延防止等重点措置の解除
 オミクロン株の拡大を受けて急上昇した福岡県内の新規感染者は、2月5日に過去最多の5,600人(市内2,096人)が確認され、「病床使用率」は2月14日に86.7%(1,352床使用)「宿泊療養施設稼働率」は同日に45.1%(1,113室使用)とピークを迎えた。
(現在の確保病床数は1,626床(うち重症病床確保数206床)、宿泊療養施設は2,468室12施設・市内8施設))
 自宅療養者もこれまでにない規模で増加し、2月11日には第5波ピーク時の約5倍となる51,561人と過去最多を更新した。第6波では子どもへの感染が増え、家庭内感染につながる事例が相次いだ。また、高齢者施設でのクラスターも多発し、基礎疾患がある高齢者が感染で容体が悪化し、死亡に至るケースも発生している。
 県内の新規感染者数は2月下旬以降、ゆるやかな減少傾向が続いており、医療提供体制への負荷も軽減し、自宅療養者もピーク時からは減少したことから、福岡県に発令されていた「まん延防止等重点措置」は3月7日に解除された。

○オミクロン株派生型(BA.2)への懸念
 オミクロン株は感染から発症までの潜伏期間が約3日と短く(デルタ株は約5日)、感染者が次の人に感染させる期間を示す「世代時間」も約2日(デルタ株は約5日)と短いことが、第6波の急速な感染拡大をもたらした。
 また、オミクロン株の派生型で主流の「BA.1」よりも感染力が強いとされる「BA.2」が国内でも確認されており、今後置き換わりが進めば、再び急速な感染拡大の発生が懸念される。

●福岡市の新型コロナワクチン接種

○3回目のワクチン接種
 新型コロナワクチンの3回目接種は政府の想定通りには進まず、2月末までに概ね終了が見込まれていた高齢者への接種は約6割止まりとなっている。
 各自治体への1・2回目接種のワクチン供給割合はファイザー社製8割、モデルナ社製2割であったのに対し、3回目接種の供給予定割合はファイザー社製4割、モデルナ社製6割で、ファイザー社製ワクチンで「個別接種」を行う福岡市内の各医療機関へのワクチン供給量は潤沢ではない。1・2回目同様に「個別接種」を希望する人が多いと予想される中、ワクチン供給量の偏りが接種促進を妨げる一因となっている。
 また、接種間隔を巡る政府方針も二転三転しており、各自治体は対応に苦慮しているが、福岡市では接種を希望する市民がスムーズに接種できるよう次の体制強化に取り組んでいる。
 本会では福岡市と連携し、高齢者施設への「移動集団接種」に医師派遣を行っている。

福岡市 3回目の新型コロナワクチン接種体制への取組み (令和4年3月25日現在)
・全対象者の接種間隔を6ヵ月に前倒し(2月18日以降)
「集団接種」会場の週末(金・土)夜間の開設時間を21時まで延長
・市内1ヵ所で実施中の「予約なし接種」を全ての会場に拡大(受付日時:月~木の12~15時)

○福岡市、小児(5~11歳)へのワクチン接種開始
 厚生労働省は1月21日、5~11歳向けのファイザー社製の新型コロナワクチンを特例承認した。国内の5~11歳の感染者の多くは軽症だが、基礎疾患のある子どもを中心に一部重症化が報告されており、日本小児科学会は基礎疾患のある子どもはワクチン接種により重症化の予防が期待できるとしている。
 福岡市では3月6日より5~11歳へのワクチン接種を開始した。

福岡市の小児(5~11歳)へのワクチン接種体制
  場所 開始日
集団接種 ももち体育館(毎週日曜) 令和4年3月6日
個別接種 市内約70医療機関 随時開始

●経口治療薬、後遺症への対応

○国産の経口治療薬への期待
 厚生労働省は2月10日、軽症から中等症の新型コロナウイルス感染症患者に対する経口治療薬「ニルマトレルビル/リトナビル(販売名:パキロビッドパック)」を特例承認した。国内では2剤目の経口治療薬となるが、高脂血症や不眠薬などの治療薬と併用服用ができないため、処方には慎重な対応が求められる。
 また、現在、国内の製薬会社が開発した経口治療薬が厚生労働省に製造販売承認の申請中で、承認されれば国産では初の軽症・中等症患者向け経口治療薬となる。国内での迅速で安定的な供給により、治療の選択肢が広がるため、早期承認が期待される。

<新型コロナウイルスの軽症者向け経口治療薬>

薬剤名(販売名) 企業名 備考
モルヌピラビル
(ラゲブリオ)
メルクなど ・2021.12承認
・入院・死亡リスクを30%減少
ニルマトレルビル/リトナビル
(パキロビッドパック)
ファイザー ・2022.2承認
・入院・死亡リスクを89%減少
S-217622 ※販売名未定 塩野義製薬 承認申請中

※厚生労働省資料等をもとに作成

○福岡県、後遺症の診療相談窓口開設
 福岡県には新型コロナウイルスの治療終了後に嗅覚や味覚異常、倦怠感といった「罹患後症状(後遺症)」に関する相談が、昨年8月から今年1月までに約120件寄せられた。県は後遺症に悩む人の診療相談窓口を2月10日に開設、看護師が24時間体制で問い合わせを受け付け、症状に応じて医療機関を紹介する体制を整えている。(TEL 092-643-3630 ※24時間対応)

●福岡市医師会の取組み

 第6波の感染拡大により、全国の自宅療養者数は急増し、2月中旬には過去最多の約57万人にのぼった。
 本会では自宅での療養生活の不安軽減のため、感染対策や関連情報を整理し、オミクロン株の特性も踏まえた「自宅療養の重要ポイント」を作成して本会一般向けホームページに公開した。
 また、新型コロナの回復後も基礎疾患等で療養が必要な高齢者をスムーズに後方支援病院へ転院させるため、福岡市設置の「転院支援調整本部」に本会から役員を派遣し、調整にあたった。

<自宅療養の重要ポイント>

項目 概要
①感染対策をしましょう ・分離生活、マスク着用、換気の重要性
・子どもの年齢や家庭環境に応じて可能な範囲で対策を実施
②毎日の病状を誰かに報告しましょう ・体温や酸素飽和度、脈拍など体調を記録
・家族やパートナーなどへ毎日報告
③脱水対策をしましょう ・脱水状態になると体重減少や脈拍上昇、トイレの回数減
・1日1.2リットル(ペットボトル500ml約2.5本分)の摂取を
④症状が悪化したら医療機関等へ連絡しましょう かかりつけ医や行政設置の相談ダイヤルへすぐに電話
⑤症状が改善したら体操等で体を動かしましょう 足の血管にできた血栓が肺静脈に詰まる「エコノミークラス
症候群」への注意も必要(体操の見本動画掲載)

※詳細は福岡市医師会ホームページ( https://www.city.fukuoka.med.or.jp/ )に掲載

●令和4年度診療報酬改定の概要

 医療現場では前述の新型コロナウイルス対策を行ってきたが、来たる4月には2年毎の診療報酬改定が行われる。
 外来医療における主な変更内容は次のとおり。

項目 内容
「オンライン診療」の見直し 現行のオンライン診療料を廃止。初診料、再診料等の中に「情報通信機器を用いた場合」として新たな点数設定
(初診料251点、再診料・外来診療料73点 → 現行のオンライン診療料より診療報酬を引き上げ)
※厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に沿って診療した場合に算定可能
繰り返し利用可能な「リフィル処方箋」の導入 一定期間内に処方箋を反復利用できる「リフィル処方箋」の仕組みを新たに導入(上限3回まで)
(医師がリフィル処方可能と判断した場合、処方箋の「リフィル可」欄にレ点を記入)
※1回の投与期間が29日以内であれば、長期処方に伴う処方箋料の減算規定は適用されない
「マイナンバーカードの健康保険証利用」の普及活用 マイナンバーカードの健康保険証利用(オンライン資格確認システム)で患者の診療情報を取得した場合、
「電子的保健医療情報活用加算」が新たに算定可能(初診時7点、再診・外来診療時4点)
※システム導入済みだが患者情報を取得困難な場合等は初診時に3点算定可能(R6.3.31まで)

※中医協資料をもとに作成

医療情報室の目

第7波へ備えた体制確立

 新型コロナウイルスのオミクロン株による第6波は過去最大の感染者・死亡者数を数え、大きな爪痕を残している。第6波では3回目ワクチンの未接種者が多く、感染予防効果が低減していることもあり、高齢者への感染拡大を引き起こした。現在、国内の新規感染者数は減少傾向ではあるものの、第5波のような急激な減少には至っておらず、ワクチン接種が全国民に行き届いていないことも要因と考えられる。
 政府は社会経済活動と感染対策のバランスを考慮し、「まん延防止等重点措置」を全面解除したが、感染力が強いとされるオミクロン株の派生型(BA.2)が広がれば、第6波が収束する前に感染の再拡大が起こる可能性は十分にある。
 次の変異株がどのような特徴をもつか予測は難しいが、「第7波」が来る可能性は高い。地域の医療機関が検査や治療を速やかに行える体制を確立することは無論、そのために必要な検査キットや治療薬、医療資材(マスクや防護服等)、更にはワクチンに関しても、必要十分な量を予め確保することがより不可欠で、引き続き政府にはこれらへの迅速な対応を求めたい。

診療報酬改定への慎重な対応

 新型コロナウイルスの第6波が収束しない中で行われる診療報酬改定は、上記の外来医療に関する内容だけを見ても、様々な見直しがなされ、全体を見渡しても従来の医療機能の再編や分化を更に進める内容となっている。近年、診療報酬はその体系や内容が複雑かつ難解になってきており、コロナ禍で医療現場が疲弊している中、要件等を無理に厳格化することは地域の医療提供体制に悪影響を及ぼす可能性がある。
 また、診療報酬改定は、政府が考える医療政策の方向に誘導する面も併せ持っていることから、我々医療従事者としては、改定内容に沿って政府が医療をどのような方向へ導きたいのかを注視し、慎重に対応していく姿勢が欠かせないと考える。

編集
福岡市医師会:担当理事 立元 貴(情報企画担当)・牟田浩実(広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)