医療情報室レポート No.247 特集 :新型コロナウイルス感染症への対応~その10~
2021年9月24日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集 : 新型コロナウイルス感染症への対応~その10~
新型コロナウイルスの感染者は7月以降に急増し、国内では「第5波」の局面を迎えた。8月19日に1日あたりの感染者が全国で初めて2万5千人を超え、9月1日には国内の感染者が累計150万人に達している。感染者が50万人を超えるまで約1年3ヵ月、100万人までは約4ヵ月かかっていたが、150万人を超えるまでわずか26日と、今回の「第5波」では感染力が強い「デルタ株」が主流となり、これまでに経験してこなかったスピードで感染が拡大した。
政府は東京都に「緊急事態宣言」(7月12日)を発令して以降、全国一律でなく、感染が悪化した地域に限定して宣言を発令していき、9月30日までの対象区域は19都道府県となっている。(「まん延防止等重点措置」は14県)
感染拡大で陽性確認後に入院や宿泊療養を待つ自宅待機者が急増したことに伴い、政府は入院を「中等症以上の患者」とし、それ以外の重症化リスクの低い患者は原則「自宅療養」とする新たな方針を打ち出した。各自治体は地域医師会などと連携して地域の実情に合わせた自宅療養者への支援体制を構築し、医療提供体制の整備拡充に努めている。
今回は、福岡県の病床逼迫状況や自宅療養者への支援体制、ワクチン接種事業の進捗について特集する。
●福岡県「緊急事態宣言」発令
○「緊急事態宣言」4度目の発令
7月11日に福岡県は「まん延防止等重点措置」の対象区域から除外されたものの、約2週間後に1日200人超の感染者が確認されるなど急速な感染拡大を受け、7月28日に県は「福岡コロナ警報」を発出した。
8月2日、政府は再度「まん延防止等重点措置」の対象区域に福岡県を追加、8月5日に県は「福岡コロナ警報」を「特別警報」に引き上げ、「緊急事態宣言」の発令を政府に要請したが、発令決定は8月17日と遅く、その間、第4波を上回るペースで感染者は増え続けた。
8月18日には県内で最多の1,253人(市内625人)の感染者が確認され、「病床使用率」は8月26日に69.4%、「重症病床使用率」は8月31日に19.2%とピークを迎えている。新規感染者数が高い水準のままであれば、病床使用率も高まる恐れがあり、予断を許さない状況が続いている。(現在の県内確保病床数は1,480床(うち重症病床確保数203床))
県の「宿泊療養」は医師と看護師が24時間常駐し、全室に酸素飽和度計を設置、使用済みの客室清掃方法の見直しなど運営方法の改善に努めてきたこともあり、ピーク時には約7割が稼働している。(現在の宿泊療養施設は10施設2,106室(市内6施設1,427室))
福岡県に発令された4度目の「緊急事態宣言」は当初、8月20日から9月12日までとされていたが、病床使用率や重症化率が依然として高い水準にあることから、9月30日まで延長された。政府の分科会は、宣言解除には新規感染者数の動向を考慮しながら、医療提供体制の負荷に比重を置くことを提言している。
○デルタ株の猛威と影響
感染拡大の第5波では、感染力が従来株の約2倍とも言われるデルタ株が猛威を振るい、全国各地で過去最多を更新する感染者が確認された。
デルタ株の主要変異である「L452R」のスクリーニング検査における陽性者の割合は、東京都で8月上旬に約9割、福岡県では8月中旬に約9割に達しており、市中感染は概ねデルタ株に置き換わっている。
第5波の特徴としては、10代から40代の感染者が全体の8割と「40代以下の若年世代への感染拡大」、高齢者の重症化がワクチン効果で抑えられている一方、接種未完了の「40~50代の重症者増」がある。
また、感染経路を見ると同居の家族から広がる「家庭内感染」が急増、学校施設や職場での感染も相次いで発生しており、感染リスクはより身近な場所に迫っている。福岡県内でも「家庭内感染」の割合が増え続け、8月23日~30日の週には初めて7割を超えている。
千葉県では8月、「自宅療養中の妊婦の入院受入先」が見つからず、早産後に新生児が死亡する事態が生じた。福岡県では妊婦の受入は県の調整本部で実施し、病床逼迫時には専門医チームで対応可能な体制を整えているが、同様の事例発生を防ぐため、全国的に感染妊婦の搬送体制の強化が求められている。
●医師会と行政の連携
項目 | 内容 | |
本会の取組み | 自宅療養者への診療開始 | 「第5波」による自宅待機者の急増に伴い、保健所業務が逼迫し、自宅での症状悪化や死亡例の発生が危惧されることから、本会では福岡市からの要請もあり、体制構築を進めていた自宅療養者への診療を開始(8月11日) 保健所の指示で「自宅療養」となった場合、容体に変化等があれば患者が医療機関に電話して医師の診断を受け、入院等が必要な場合は保健所が調整を行う(市内約300医療機関が登録、238件対応(8/11~8/31保健所報告数)) |
福岡県・県医師会の取組み | 夜間・休日専用ダイヤル設置 | 「自宅療養者」が保健所の閉庁時間帯に高熱や倦怠感などの症状に関して相談可能な「夜間・休日専用ダイヤル」を福岡県メディカルセンター内に設置(8月13日) (700件対応(8/13~9/14)) 看護師等が受診や往診可能な医療機関を紹介し、緊急と判断した場合は救急要請により受診勧奨を行う |
中和抗体薬の投与 (抗体カクテル療法) |
軽症、中等症患者向けの治療法である中和抗体薬の投与(抗体カクテル療法)を福岡市内の「宿泊療養施設」で開始(8月16日)(54名対応(8/16~9/13)) 発症後7日以内の投与が必要なため、福岡県医師会は感染判明後すぐに登録医療機関で早期投与できる体制を構築 |
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酸素投与ステーション設置 | 自宅や宿泊療養施設で症状が悪化し、入院が必要となった患者を一時的に受け入れ、酸素投与や健康観察を行う「酸素投与ステーション」を設置し、受入開始(8月31日) 医師や看護師等が24時間体制で常駐し、必要に応じて薬の投与も行う(市内1ヵ所:34床確保、最大50床) |
●新型コロナワクチン接種
○全国民の5割 2回接種完了
政府は9月13日、ワクチン接種を2回終えた人の割合が全人口の5割を超えたことを公表したが、接種完了の半数以上を高齢者が占め、進捗には地域差もある。
福岡市の一般住民への接種率は9月19日時点で1回目75%、2回目60%(うち65歳以上の高齢者1回目93%、2回目91%)となり、市内のワクチン接種予約は9月末までに市民の約7割が予約している状況である。
ワクチンを2回接種することで、感染や重症化リスクが低くなることが明らかになってきているが、時間とともに効果が低下する可能性も指摘されており、厚生労働省は3回目接種(ブースター接種)や異なる種類のワクチンを打つ「異種混合接種」について議論を始めている。
○小児の接種体制整備
日本小児科学会と日本小児科医会では、基礎疾患を有する子どもへの接種は重症化予防が期待されるが、健康な子どもへの接種はメリットとデメリットを理解した上での接種を勧めている。
本会では12歳から15歳の接種実施登録医療機関を募集し、保護者や本人への丁寧な説明や対応が可能な個別接種体制を整えている。(市内約190医療機関)
○妊婦への優先接種
日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会では妊婦が感染すると重症化リスクが高いことから、時期を問わず、ワクチンの接種を勧めている。
福岡市は妊婦や配偶者、妊婦の両親等を対象に優先接種(予約の優先調整)を実施、福岡県では優先接種会場を設置し、希望する妊婦がすぐにワクチン接種できる体制を構築している。
医療情報室の目
★ワクチン接種の更なる促進
新型コロナワクチンの接種開始から約7ヵ月、開始当初は審査に時間を要したことや供給不足の影響で諸外国に比べ接種に遅れが目立ったものの、現在では国内の2回接種完了の割合は全人口の5割を超え、9月末には6割に達する見込みとなり、接種の割合は欧州に迫りつつある。私共、医療従事者は日常診療の傍らでワクチン接種を全力で進めてきたが、関係機関や多くの方にワクチン接種へのご理解とご協力を頂いた結果と考えている。
今回の第5波で猛威を振るう「デルタ株」は感染力が非常に強く、ワクチン接種率が8割を超えた国でも感染者が急増しており、政府の分科会では「希望者全ての接種が終わっても集団免疫の獲得は困難」としている。また、2回接種後、免疫を獲得するのに必要な2週間が経過した後に感染する「ブレイクスルー感染」も全国各地で確認されている。
一方、厚生労働省が9月1日から3日までの新規感染者におけるワクチン接種状況を調査したところ、「未接種者」が10万人あたり59.9人の感染であったのに対し、「2回接種者」は4.5人と「未接種者」と比べ約13分の1に抑えられていることが判った。さらに、第4波と比べ今回の第5波では感染者が2.9倍に増えたが、重症者は1.6倍にとどまり、また、死亡者は6割減少するなどワクチン接種の効果が数値として表れてきている。ワクチン接種を一層進めるためにも、特に若年世代の接種加速には、政府だけでなく各自治体でも接種の普及啓発の強化や希望者が速やかに接種できる環境づくりが必要である。
★今後の取組みと見通し
第5波では全国の医療機関や宿泊療養施設、自宅での療養者の数が想定を大きく超えることになった。厚生労働省は今後の「第6波」を見据え、病床や療養計画の見直しを都道府県に要請しており、大幅な病床の上積みは一般医療への影響が大きいことから、「臨時医療施設」や「入院待機施設」の開設など病床を補完する形での整備が求められている。同時に「自宅療養者への支援体制」としては不安を抱えながら医療を必要とする患者へ遅滞なく対応できる体制の整備と充実が欠かせない。
ワクチン接種が進んだことで感染が広がる世代や重症化率に変化が現れ、7月には「抗体カクテル療養」が新たに承認されたことで症状改善に大きな効果が見られるようになり、新型コロナウイルスの対策は新たな局面を迎えつつあるように思われる。政府はワクチンの3回目接種を実施する方針を決め、今後の開始時期や対象者について引き続き議論が進められる。現在開発中の治療薬も多く、今後、自宅で対応可能な経口治療薬が実用化されることになれば、コロナ禍収束の見通しとその後はインフルエンザへの対応と同様に予防と検査、治療によるウイルスとの共存社会へと進んでいくことが考えられる。しかしながらそれまでには今しばらくの時間は必要で、その間にもウイルスは変異を続けていくため、私達には自身や周囲への感染防止のためマスク着用や三密を避けるといった従来の基本的な対策の継続と更なるワクチン接種率の向上が求められている。
編集
福岡市医師会:担当理事 立元 貴(情報企画担当)・牟田浩実(広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。
(事務局担当 情報企画課 上杉)