医療情報室レポート No.245 特集 :新型コロナウイルス感染症への対応~その8~

2021年5月28日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集 : 新型コロナウイルス感染症への対応~その8~

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は令和3年4月25日から東京、大阪、兵庫、京都の4都府県を対象に「緊急事態宣言」を発出した。前回の解除からわずか50日余りで3度目の発令となった「緊急事態宣言」は、当初5月11日までの期限が5月31日まで延長されると同時に、5月12日からは福岡と愛知、5月16日から北海道、岡山、広島、5月23日から沖縄を加えた10都道府県に対象が拡大された。第4波の感染拡大は、感染力が強く重症化するリスクが高い「変異株」の流行が要因となっており、福岡県も含み1日あたりの感染者数が過去最多を更新する自治体が相次ぎ、医療提供体制が逼迫して、危機的状況に及んでいる。
 高齢者等へのワクチン接種は予約開始や接種実施等が各地で進んでいるが、先立って優先接種対象となっている医療従事者等への接種は未だ完了しておらず、高齢者と同時並行で接種が進められている状況となっている。
 今回は、福岡県における新型コロナウイルスの病床逼迫状況やワクチン接種事業の進捗について特集する。

●福岡県「緊急事態宣言」発令

○「緊急事態宣言」3度目の発令
 2度目の「緊急事態宣言」で福岡県が対象区域から除外された令和3年2月28日以降、県内の新規感染者数は大きく減少したものの、下げ止まりが続いていた。4月中旬、約2ヵ月半ぶりに100人を超える感染者が確認された後、感染者数は高い水準のまま増加し、5月12日には1日最多を更新する635人の感染者が県内で確認された。
 福岡県は5月1日、「まん延防止等重点措置」を適用するよう政府に要請したが、厳しい感染状況と九州各県への広域的な感染拡大防止を図るため、政府は同措置を飛び超え「緊急事態宣言」の対象区域に福岡県を追加することを決定した。
(対象期間:5月12日~5月31日 ※政府は5月27日に期間を6月20日まで延長する方針を決定)
 県内の「病床稼働率」は5月23日に82.0%「重症病床稼働率」は5月19日に56.2%とピークを迎えているが、現在の感染状況を考慮すると今後も病床稼働率は上昇する可能性があり、深刻な状況が続いている。(現在の確保病床数は1,298床(うち重症病床確保数172床)
 また、軽症者等を収容する宿泊療養施設は8施設1,734室(市内5施設)まで増えているが、宿泊療養者が過去最多となった5月23日の稼働率は57.6%と6割を下回っており、それに伴う自宅待機者等の増が感染拡大の一因となっている可能性がある。

○変異株の流行
 厚生労働省は令和2年12月、英国を中心に感染が広がっていた「変異ウイルス(変異株)」が国内で初めて検出されたことを発表した。
 国立感染症研究所は、国内における英国型の変異株は従来株より感染力は約1.3倍重症化するリスクは約1.4倍高い可能性がある解析結果を公表。変異株は従来の高齢者だけでなく、40代から50代でも重症化するリスクが高い傾向が見られる。(40~64歳の重症化リスクは約1.66倍)
 また、陽性者に占める割合が全国各地で約9割以上英国型に置き換わっていると分析された変異株について、若年層や子どもなどを含めた全世代に感染リスクがあることを改めて認識の上、今迄以上に感染予防意識を高める必要がある。
 変異株には英国型南アフリカ型ブラジル型など複数の種類があるが、その解析には都道府県がスクリーニング検査を実施した検体を東京の国立感染症研究所へ送付、「ゲノム解析(確定検査)」により確定される。猛威を振るうインド株の変異株の国内流入も危惧されており、変異株の早期発見、早期抑え込みのために、政府には徹底した水際対策と監視強化が求められる。

●新型コロナウイルスワクチン接種事業

○高齢者等への接種
 65歳以上の高齢者を対象としたワクチン接種が全国で本格化しているが、電話やインターネットに予約が殺到し、自治体に苦情が寄せられるなど各地で混乱が生じている。福岡市では身近なかかりつけ医への直接予約も可能としているが、接種券等の発送以降、予約を求める人や問合せ等が医療機関に相次ぎ、通常診療にも影響を及ぼしている。
 政府は高齢者への接種を7月末に終えたい考えを示しているが、目標達成のためには政府がワクチン配送日時等をより早期に示すことや、自治体は予約方法や受付システムの改善など、解決すべき課題は山積している。
 本会では福岡市と共同してワクチン接種事業を次のとおり進めており、個別接種への協力だけではなく、集団接種に医師を派遣するなど、接種体制構築に取り組んでいる。福岡市では独自の優先接種対象(介護従業者、保育士、教職員等)への接種を進めるため、集団接種会場の対応時間延長(22時まで)や、7月開始予定の一般向け接種に合わせ24時間対応の接種会場設置などの接種体制強化を今後予定している。

項目 内容
1 トライアル接種実施 全国的に供給されるワクチン量が限られるため、福岡市では接種対象者を限定し、4月中は試行的な運用を実施(4月12日(月)以降、順次開始)
 ①個別接種(クリック約140箇所)
   [対象]クリニックのかかりつけ患者等(約4,200人)
 ②集団接種(マリンメッセ福岡B館)
   [対象]地域の民生委員や自治会会長等(約1,000人)
 ③出張接種(高齢者入所施設等)
   [対象]入所者や従事者等(約200人)
2 接種券等発送 優先接種対象の65歳以上の高齢者(市内約36万人)に福岡市が接種券(予診票、接種可能な医療機関一覧など)を発送(4月27日(火)から約2週間かけて配送)
3 ワクチン接種の予約 接種には事前予約が必要だが、接種券等が手元に届くまで時間がかかることや、予約が集中することを避けるため、75歳以上は5月12日(水)65~74歳は5月19日(水)から予約受付開始
<予約方法>
 ①専用サイトから予約( https://www.city.fukuoka.lg.jp/hofuku/coronavaccine/wakutin.html )
 ②「福岡市新型コロナワクチン接種コールセンター」へ電話
   TEL:092-260-8405(多言語対応)
   受付時間:8時30分~17時30分(土日、祝日も対応)
 ③地域のクリニックに直接予約
4 福岡市における接種開始 国からのワクチン供給量に一定の目途がついたため、高齢者へのワクチン接種を本格的に開始
 ①個別接種(地域のクリニック約780箇所) [開始]5月24日(月)
 ②集団接種(マリンメッセ福岡B館)     [開始]5月13日(木)
 ③出張接種(市内約600ヵ所)       [開始]5月10日(月)

○医療従事者等への接種
本年2月に開始した医療従事者への優先接種だが、全国で対象となる約470万人のうち、2回の接種が終わったのは約247万人(約52%)に留まる。(5月21日現在)
(福岡県内対象者約21万人のうち、2回接種終了は約9万人(約43%)
 接種が進まない背景には、政府のワクチン供給の遅れや自治体が配送や接種日程の調整に苦慮していることなどがあり、ワクチン未接種の医師が高齢者接種に携わる事態が生じている。
 厚生労働省は、高齢者向けのワクチンを医療従事者へ転用可能とする方針を示し、福岡市でも柔軟に対応しているが、接種完了時期の先行きは未だ不透明な状況にある。

医療情報室の目

ワクチン接種の推進

 政府が「感染対策の決め手」と位置づけるワクチン接種だが、医療従事者の接種状況は道半ばにある。
 国民全体の接種割合に目を向けると、イギリスのオックスフォード大学などが調査したデータでは、日本で少なくとも1回のワクチン接種を受けた人の割合は5月26日時点で6.01%、OECD(経済協力開発機構)加盟37カ国中、最下位となっており、我が国の接種事業は国際的にも遅れをとった状況である。遅れの原因としては、ワクチンの確保や国内の承認手続き、16歳以上の国民を対象とした新たな接種体制の構築や、元々のワクチン国内生産体制等、様々な要因が考えられるが、将来の危機に備えるためにも今後その検証は必要と考える。ワクチンの予約と供給が始まった今、医療現場では通常診療に加えてワクチン接種への対応に追われ業務量は過大なものになっている。
 厚生労働省では5月20日、米モデルナ社製と英アストラゼネカ社製の新型コロナウイルスワクチンを特例承認することを決定した。既に承認している米ファイザー社製を含め、政府が供給契約を交わしているワクチン3製品が国内で使用できるようになり(厚労省諮問機関でアストラゼネカ製ワクチンは公的接種の当面見送りが決定)、早速、国が設置する大規模接種会場(東京・大阪)では米モデルナ社製ワクチンの使用が開始され、今後のワクチン供給状況に合わせて国内での接種の加速が期待される。
 現在、国内に広がっている変異株へのワクチンの効果について、横浜市立大学の研究チームが研究結果を公表した。米ファイザー社製の新型コロナウイルスワクチンを2回接種した人の約9割が7つの変異株全てに対する抗体を持ち、従来株だけでなく変異株の抑え込みにもワクチン接種は非常に有効な手段との研究結果で、局面打開の光明として大変期待される内容であった。
 本稿作成時点において、福岡県を含み複数の都道府県で3回目の緊急事態宣言の最中にあり、一部地域の追加や期間延長について議論が行われている。一年以上に亘るコロナ禍で、人の流れや社会活動の抑制を繰り返し対応してきたこの難局を乗り越えるために、政府、自治体、医療関係者それぞれが抱える問題を共有しつつ、国民と一丸となり解決に向かう強固な意志と姿勢を示し、ワクチンの安定的な供給はもとより人材や接種会場等の確保に努め、我々地域医師会としても接種事業の推進と感染抑制に尽力していく所存である。

編集
福岡市医師会:担当理事 立元 貴(情報企画担当)・牟田浩実(広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)