医療情報室レポート No.244 特集 :新型コロナウイルス感染症への対応~その7~
2021年3月26日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510
特集 : 新型コロナウイルス感染症への対応~その7~
令和3年1月7日に首都圏1都3県へ発出された「緊急事態宣言」は当初1ヵ月の期間とされていたが、新規感染者数の減少ペース鈍化や病床の逼迫が続いていることから、二度も期間が延長され、2ヵ月半に亘った宣言は今月21日に解除された。同じく「緊急事態宣言」の対象区域となった中部、関西圏、福岡県では、地域の感染状況や医療提供体制を勘案し、首都圏より先行して宣言は解除されたものの、感染の再拡大を防ぐために各地域全体で引き続き感染対策を徹底することが呼びかけられている。
国内では一部の医療従事者を対象に、国が行う先行接種として新型コロナウイルスワクチンの接種が2月17日に始まった。地域で新型コロナウイルスの診療に関わる医療従事者等への優先接種も順次進んでおり、4月には一部地域で高齢者等への接種が開始される予定だが、ワクチン供給が段階的なこともあり、各自治体は接種体制構築や実施日程作成に苦慮している。
今回は、福岡県における新型コロナウイルスの病床逼迫状況やワクチン接種事業について特集する。
●福岡県「緊急事態宣言」解除
1月13日に福岡県へ発出された「緊急事態宣言」の期間以降、「病床稼働率」は1月31日に80.6%、「重症病床稼働率」は2月4日に38.2%とピークを迎えた。2月7日までとされていた宣言期間は、医療提供体制を考慮して一度は延長されたものの、新規陽性者数は減少傾向が続き、病床稼働率もピーク時に比べると改善したこともあり、2月28日に福岡県は緊急事態宣言の対象区域から除外された。
(県独自の指標である「福岡コロナ警報」は3月26日現在継続中)
福岡県では陽性者は医療機関か宿泊療養施設(民間ホテル)に隔離することを原則としていたが、感染者の急増時には入院やホテル入所を自宅で待機する人数が最多で2,836名(1月18日)となった。県は宿泊療養施設の効率的な運用を行うため清掃や消毒方法の見直し、新型コロナウイルスから回復後、他の疾病等で入院が必要な患者については「後方支援病院」への転院を進めるなどの改善を図っている。
現在の確保病床数は770床(うち重症病床確保数111床)、軽症者等を収容する宿泊療養施設は6施設1,387室(市内4施設)、後方支援病院は158機関である。
●新型コロナウイルスワクチン接種事業の体制構築
○医療従事者等への優先接種(調整主体:福岡県)
国立病院等の医療従事者を対象に2月から始まった国の「先行接種」に引き続き、地域の医療従事者等を対象に福岡県が実施する「優先接種」が3月5日より開始された。
まずは新型コロナウイルスに対応する21の重点医療機関と受入病床を確保する46の医療機関の従事者が対象となり、3月末までに約5万人のワクチンが国から配送される予定である。
しかし、ワクチンの供給が段階的であることから、県内の医療従事者約21万人への「優先接種」完了時期の先行きは不透明な状況にある。
厚生労働省は、超低温冷凍庫(ディープフリーザ―)を設置してワクチンの分配を行う「基本型接種施設」とワクチンの分配を受ける「連携型接種施設」を“接種医療機関”とし、接種方法の詳細は都道府県が地域の医療関係団体等と調整することを求めている。
(福岡県と県医師会では現在接種体制を構築中)
○高齢者等への優先接種(調整主体:福岡市)
医療従事者の次に優先となる「65歳以上の高齢者」、その後順次対象となる「基礎疾患がある方等」や「一般の方」へのワクチン接種は、各市町村が地域の実情に応じて接種体制を構築することとなっている。
福岡市では診療所での「個別接種」を中心に、「集団接種」や「高齢者施設への出張接種」などを組み合わせた体制を構築中である。
現在、福岡市では対象者約129万人の8割103万人への接種を想定し、5ヵ月で完了することを目標にしている。接種体制の概要は次のとおり。
項目 | 内容 |
接種場所 | ①身近な地域のクリニック等(約700箇所) ②クリニックを支援する病院(市内7区に各2~3箇所) ③集団接種会場(公共施設等)(8箇所) ④高齢者施設等への出張接種 |
接種順位 | ①高齢者(高齢者施設等の従事者を含む)(約32万人) ②市独自の優先接種者(約5万人) (介護従業者(訪問・通所)、教職員、保育士、警察官) ③基礎疾患がある方など ④その他の方 |
接種期間 | 全ての接種希望者への接種を5ヵ月で実施(開始時期未定) (接種順位①と②については2ヵ月で実施) |
配送 | 「ワクチン配送センター」を設置し、各医療機関へ週2回、 必要量のワクチンを配送 |
サポート | 「医療機関サポートセンター」を開設し、予約調整や キャンセル対応、医療機関からの各種相談を行う |
●福岡市医師会の新型コロナウイルス感染症対策
項目 | 内容 | ||
行政との連携 | 「天神北サテライト」開設 | 「福岡市医師会診療所」(PCR検査センター)の新たなサテライトを天神北地区に設置し、令和3年2月26日より稼働。 保健所から依頼の濃厚接触者等を対象に唾液によるPCR検査を実施している。 |
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ワクチン「集団接種」会場への医師派遣 | 福岡市では土日を含む対応として、市内最大8ヵ所にワクチンの「集団接種」会場を開所予定である。 本会では問診や診察を行う「医師」の派遣を担う予定。 |
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本会の取組み | 「ワクチン接種マニュアル」作成 | 国が作成するマニュアルをもとに、特にアナフィラキシーへの対応として、「救急搬送に繋げるまでの初期対応に関する手順の整理」や「受入病院および救急隊との連携体制整備」に関する内容を現在作成中。 | |
ワクチン予防接種の説明会開催 | 令和3年3月16日(火)に本会会員向けに会場参加とWeb上でのLive形式による説明会を開催し、福岡市からの事業説明、専門医からワクチン接種の実際や注意点に関する解説を行った。(会場参加114名、Web参加2,493名) なお、説明会は報道各社も参加し、各種メディアにて報じられた。 |
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※「福岡市医師会診療所およびサテライト運営」、「PCR検査等の集合契約」、「出張PCRセンター運営」、「医療施設従事者へのPCR検査事業」、「高齢者の新型コロナウイルスに係るPCR検査事業」等については本レポートNo.238~241・243を参照。 |
医療情報室の目
★ワクチン接種を円滑に進めるための取組み
政府は米ファイザー社製の新型コロナウイルスワクチンについて、6月末までに最大約1億回分を調達する見込みを示している。全国の医療従事者約480万人のワクチンは5月10日の週に2回接種分の配送が完了し、高齢者約3,600万人のワクチンは4月5日の週から順次全国に配送され、2回接種分のワクチンは6月末までに配布が完了する予定である。しかし、この配送はEUの承認を前提としており、EUが輸出規制を行えば、政府が思い描くワクチン接種スケジュールに一層の遅れが生じることになる。
我が国のワクチン接種は主要7か国(G7)の最後の7番目に開始され、最も早かった英国と比較すると約2ヵ月遅れとなり、世界で繰り広げられているワクチン争奪戦では後塵を拝することになった。政府には海外企業との交渉・折衝では強硬な姿勢で臨むだけでなく、国内の感染拡大防止のために治験体制に拘り過ぎない決断力と、併せて国産ワクチンの早期実用化に向けた一層の支援体制の強化を望みたい。
一部地域で4月に開始予定の高齢者向け接種に関しては、現在、接種が進んでいる医療従事者向けの優先接種と同様、国から供給されるワクチンの量が段階的なため、最初は地域や年齢が限定され、徐々に対象が広がっていく見通しである。我々、地域医師会としては市民が安心・安全に接種でき、医療機関が円滑に接種できる体制づくりのため、行政と緊密な連携を図りながら「ワクチンの配送体制」、「接種の予約体制」、「アナフィラキシー対応等も含めたマニュアル」等の作成に鋭意取り組んでいる。
また、本会では定例記者会見や定例会見動画をホームページに掲載すること等で、市民に向け分かりやすい情報の発信を随時行っている。ワクチン接種による副反応を過度に恐れることなく、接種対象者に正しい知識を身につけて頂き、集団免疫の獲得に必要な接種率60~70%の達成に向かうよう、今後も積極的な情報発信に努めていきたい。
新型コロナウイルス感染症が国内で発生してからのこの1年で経験したように、一旦感染が収まったと見えても間をおくことなく、再拡大のリバウンドが始まる可能性は十分にある。感染力が強いとされる各変異株への警戒や先々起こり得る第4波への備えとして、私達は引き続き感染防止対策を緩めることなく日常を過ごすことが不可欠である。
編集
福岡市医師会:担当理事 立元 貴(情報企画担当)・牟田浩実(広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。
(事務局担当 情報企画課 上杉)