医療情報室レポート No.243 特集 :新型コロナウイルス感染症への対応~その6~

2021年1月29日発行
福岡市医師会医療情報室
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特集 : 新型コロナウイルス感染症への対応~その6~

 昨年11月から感染者の急増をもたらしている新型コロナウイルスの「第3波」は、今月に入ってもその猛威は止まらず、1月8日には国内で過去最多を更新する7,882人の感染が確認された。政府は1月7日、新型コロナウイルス対策で2度目となる「緊急事態宣言」を1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)に発出、13日には福岡を含めた7府県(大阪、兵庫、京都、愛知、岐阜、栃木、福岡)に対象を拡げているが、感染拡大に歯止めがかからない深刻な現状に医療提供体制は追いつかず、医療崩壊が現実のものとなりつつある。
 政府が「感染対策の決め手」と期待する新型コロナウイルスワクチンは現在、承認申請が行われており、同時にワクチン接種を行うための体制整備も進められ、早ければ2月下旬にもまずは医療従事者向けに接種が開始される予定である。
 今回は、新型コロナウイルスに対する医療提供体制やワクチン接種事業の課題について特集する。

●福岡コロナ警報

 昨年12月以降、県内の新規感染者の増加が顕著となったことから、県では12月12日に2度目の「福岡コロナ警報」を発信した。(1月29日時点継続中)県民や事業者に対して感染防止対策の周知徹底を図ったものの、その後も感染者数は高い水準で推移し、1月16日には1日最多を更新する411人の感染者が県内で確認された。
 「病床稼働率」は1月24日に74.1%「重症病床稼働率」は1月27日に33.6%とピークを迎えているが、今後の感染状況によっては医療提供体制の維持が困難な事態の可能性もあり、医療現場は緊迫した状態が続いている。
 県では病床や宿泊療養施設の確保を随時進めており、現在の確保病床数は677床(うち重症病床確保数110床)となり、また、軽症者等を収容する宿泊療養施設は6施設1,387室(市内4施設)まで増えている。

●福岡市の年末年始急患診療体制

 年末年始の休暇に感染が広がらないために、「今冬の帰省は慎重に検討する」、「大人数での会食は控える」といった対応が国民には求められた。
 本会では、年末年始に発熱等の症状がでた場合、まずはかかりつけ医へ相談してもらい、かかりつけ医が休診等の場合は、福岡市の「新型コロナウイルス感染症相談ダイヤル」へ受診相談することをホームページ等を通じて発信した。
 本会が福岡市の委託を受け運営している「急患診療センター」では、発熱患者への対策として、発熱や呼吸器症状の有無などで動線を分け、昨年12月からは敷地内にプレハブを設置し、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルス抗原検査の同時実施を開始する等、診療体制を整備した。また、市内の各保健所に設置の「急患診療所」では、建物の規模や構造上、有熱者と非熱者の動線分離が困難なことから、非熱者のみ診療を行う体制をとっている。
 今回の年末年始における受診者数は昨年比約7割減の1,586名(急患診療センター:1,505名、急患診療所:81名)であった。

●検査体制の拡充

○「福岡市医師会診療所」天神サテライト開設
 福岡市医師会では行政と連携し、ドライブスルーで検査を行う「福岡市医師会診療所」(PCR検査センター)を昨年5月に設置、6月には市内3ヵ所にサテライトを設置するなど検査体制の拡充に努めてきた。(設置場所は非公表)
 今般、検査体制の更なる強化策として、福岡市役所が立地する天神地区に新たなサテライトを昨年12月19日に開設した。従来のPCR検査センターは医師が診察の結果、必要性を認めた場合に検査を実施するものであったが、この天神サテライトは「接触確認アプリ(COCOA)で濃厚接触の通知を受けた無症状者」や、「感染拡大地域の希望者」を対象としている。

○医療施設従業者へのPCR検査事業
 福岡市では医療施設等の従業者を対象に、無料でPCR検査が受けられる事業を昨年12月21日から開始した。施設単位での申込が必要で、送付される検査キットを用いて検査を行う。

 <医療施設従業者へのPCR検査事業>
   対 象 者 病院、診療所等で業務を行う者のうち、無症状の者
   検査方法 唾液検体によるPCR検査
   実施期間 令和2年12月21日~令和3年3月31日
   検査回数 原則、検査実施期間中に従業者1人あたり3回まで

○高齢者の新型コロナウイルスに係るPCR検査事業
 高齢者は新型コロナウイルスに感染すると重症化するリスクが高いため、福岡市では、発熱などの症状がない高齢者がPCR検査を希望する場合の検査費用を一部助成する事業を1月12日から開始した。
 対象は市内居住の65歳以上の高齢者で、本会の実施登録医療機関にて検査を実施する。

 <高齢者の新型コロナウイルスに係るPCR検査事業>
   対 象 者 福岡市内居住の65歳以上の高齢者
   検査方法 唾液検体によるPCR検査
   実施期間 令和3年1月12日~令和3年3月31日
   検査回数 令和3年3月までの間で1回

●医療機関へのさらなる支援

○新型コロナウイルス感染症対応「日本医師会休業補償制度」
 日本医師会では会員医療機関向けに新型コロナウイルス感染症に対応した「日本医師会休業補償制度」を新たに創設した。
 この制度は医師をはじめ医療従事者が新型コロナウイルスに感染もしくは濃厚接触した場合に、一時的に閉院または外来閉鎖を余儀なくされた時の損失や、家賃などの継続費用を補償するもので、補償期間は令和3年1月1日から1年間となっている。

 ※加入希望の医療機関は申込専用Webページから手続きが必要。
  https://www.med.or.jp/doctor/kansen/novel_corona/009699.html

○診療報酬上での特例的措置
 昨年12月15日に閣議決定された第三次補正予算では、新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ、重症患者等の病床確保をはじめ、地域の医療提供体制を守るため、様々な措置が講じられた。
 診療報酬上での措置としては、新型コロナウイルスの影響による受診控えなどで経営難に陥っている小児科等を支援するため、6歳未満の乳幼児の外来診療に対して100点の加算が算定可能(令和2年12月15日~令和3年9月末)となった。入院に対する評価では新型コロナウイルス感染症からの回復患者の転院支援として昨年12月15日から750点(二類感染症患者入院診療加算の3倍相当)が算定可能となり、さらにこの点数とは別に、1月22日からは950点(救急医療管理加算1)が最大90日間算定可能となる措置が実施された。
 医療機関の診療は、誰もがウイルスを保有している可能性があることを考慮し、全ての患者に対して感染予防策を徹底することが求められていることから、一般診療等については「初診・再診は1回あたり5点」「入院は1日あたり10点(入院料問わず)」が算定可能となる措置が令和3年4月から9月末までの半年間、実施予定となっている。

●今後のワクチン接種事業

 新型コロナウイルスのワクチンは確保できる量に限りがあり、供給は順次行われることから、政府は接種順位を検討し、「医療従事者向け先行接種(約1万人)」を2月下旬に開始、引き続き高齢者や基礎疾患がある人等への接種を予定している。(右表参照)
 政府は今年前半までに国民全員分のワクチン確保を目標に掲げており、厚生労働省は1月20日に米製薬大手ファイザー社と年内に約7,200万人(1億4,400万回)分の供給を受ける契約締結を発表した。その他にも米モデルナ社や英アストラゼネカ社ともワクチン供給の基本合意をしているが、現在承認申請中は米ファイザー社のみで、接種体制は同社のワクチンを念頭に検討が進められており、ワクチン接種体制については次のような課題が考えられる。
 厚生労働省は、「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する医療機関向けの手引き」https://www.mhlw.go.jp/content/000722243.pdf )を1月18日付で発出している。

<ワクチン接種の優先順位>

新型コロナウイルス感染症患者等に頻繁に接する医療従事者等
高齢者
基礎疾患を有する方や高齢者施設等において利用者に直接接する職員

※その後、一般の方に接種

※妊婦を優先、子どもを接種対象とするかは、安全性や有効性の情報などをみながら検討

<ワクチン接種事業の課題 ※ワクチンはファイザー社製を想定>

課題 内容
保管や輸送 ・ワクチンはマイナス75度で保管が必要。政府は超低温冷蔵庫(ディープフリーザ)を確保しているが、台数に限りがある。
・ワクチンは1セット約1,000人分。小分けして輸送する場合は、ドライアイス入りの保冷ボックスが必要。
接種会場 接種に協力する医療機関や市町村の公共施設等を使用する際、広い部屋を複数・長期間確保することが必要。
人材確保 政府は会場ごとに1日100人接種できる体制を求めているが、接種には多くの医師や看護師等の確保が必要。
システム導入 ワクチン在庫、配布等に関しては「ワクチン接種円滑化システム(V-SYS)」が使用されるため、端末の準備や設置が必要。
安全性 接種後に接種部位の腫れ、発熱等の副反応が起こることがまれにある。(政府は健康被害が生じた場合の救済措置を設けている。)

医療情報室の目

今後のワクチン接種事業と基本的な感染対策の継続

 日本医師会が昨年末に行った「年末年始の医療提供体制等に関する調査」では、年末年始も都道府県行政や保健所、医師会が一体となって医療提供体制の整備にあたったことや、宿泊療養施設に医師会員を派遣するなどの取組みが継続されたことが報告された。一方で、医療機関や保健所に必要な資格を備えた人材が不足との声も挙がっており、日本医師会では現状を国と共有し、きめ細かく、手厚い支援を要請することを示している。今後も医療現場のニーズに沿った、迅速な支援を望みたい。
 昨年末から英国や米国などで接種が開始された新型コロナウイルスのワクチンは、我が国でも医療従事者への接種を皮切りに対象者を順次拡大する予定である。しかし、ワクチンの製薬会社によって流通方法や保存方法が異なること、国民全体に接種するといった極めて大規模な接種体制の構築が必要となるため、解決しなければならない喫緊の課題は山積している。地域の実情に応じた体制構築のため、我々地域医師会では円滑な接種実施に向け、行政と緊密な連携を図りながら協議を進めている。
 昨年改正された予防接種法では今回のワクチン接種は努力義務とされ、接種の判断は本人に委ねられている。ワクチンの安全性や有効性に関して国民への丁寧な説明と一人ひとりの理解が広がらなければ、接種が進まない可能性も考えられる。集団免疫の獲得に必要なワクチン接種率60~70%の達成にむけて、ワクチンの安全性、有効性などが理解できるように医師会からの情報発信が不可欠である。また、通常の医療に加え感染症対応の厳しい中ではあるが、医師会として接種に必要な医療従事者の確保に尽力する。
 通常数十年かけて開発するワクチンだが、今回わずか一年ほどで製品化され、承認が進められており、効果の持続性や副反応などの安全性については未だ不明な部分は多い。治療薬が確立されていない現状では、ワクチンに過度な期待を求めることなく、今まで継続してきた「三密を避ける」、「マスク着用、手洗い」といった基本的な感染対策を徹底して継続することが肝要である。

編集
福岡市医師会:担当理事 立元 貴(情報企画担当)・牟田浩実(広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)