医療情報室レポート No.240 特集 :新型コロナウイルス感染症への対応~その4~

2020年9月25日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510

特集 : 新型コロナウイルス感染症への対応~その4~

 7月中旬以降、全国各地で新型コロナウイルスの感染が再び拡大し、8月7日には全国で1日最多となる1,595人の感染が確認された。
 感染拡大が懸念される中、政府では7月の連休を見据え、当初予定から大幅に前倒しして「Go To トラベルキャンペーン」を推し進めたり、「定義がない」等の理由で「第2波」という言葉を意図的に避け、経済優先の政策が進められたように見受けられたが、感染防止対策と経済対策はバランスをとりながら両立して進めていくことが欠かせない。
 9月下旬の状況としては第2波の終盤と考えられるが、今後も複数回の感染増の波が発生することが予測される。また、既に各方面で指摘されているように、今冬の最大の懸念事項は新型コロナウイルスとインフルエンザの二つの感染症の同時流行であり、重症化しやすいとされる高齢者や基礎疾患を持っている方への対策とともに、これまでの経験で得てきた情報を基に今後の充分な感染防止対策に努めていくことが必要である。
 市中感染を抑えながら現場の各医療機関で混乱が生じないよう、我々地域医師会では行政と随時連携を取りながら検討を重ねているところである。今回は、今後の地域医療提供体制の構築や今冬を迎えるにあたっての備え、本会からの情報発信などについて特集する。

●福岡コロナ警報

○県内病床稼働率 ピーク時は66.1%
 福岡県では7月31日に1日最多となる169人の新型コロナウイルス感染が確認された。
 福岡県独自の感染状況の指標が基準を上回り、県では8月5日に「福岡コロナ警報」を発信し、医療機関には病床準備等の要請と事業者や県民に対しては感染防止対策の周知徹底を図った。
 「福岡コロナ警報」における「病床稼働率」(確保病床数に対する新型コロナウイルス感染症入院患者数の割合)は8月15日に66.1%(490床中324床使用)「重症病床稼働率」(重症患者用確保病床数に対する新型コロナウイルス感染症重症入院患者数の割合)は8月17日に38.3%(60床中23床使用)とピークを迎えていたが、その後は減少し、現在(9月25日時点)は基準である50%を下回っている。
 また、入院体制が逼迫しないよう、県では軽症者等を収容する宿泊療養施設の確保を進め、現在では4施設1,057室まで増えている。

●医師会と行政の連携

 現状と課題等について、本会では会内に感染症専門医や専門医療機関の医師を始め、行政も参加する会議を設置して対策を講じている。同時に行政主催の会議にも本会から担当役員が都度参画することで万全の連携体制を整えており、今後の速やかな対策実現に努めている。
 本会で5月に設置した「福岡市医師会診療所」(PCR検査センター)では、別途複数のサテライトを増設し、また、検査報告日数の短縮化等、体制強化に努めてきたが、今冬のインフルエンザ流行期に向け、検査体制の更なる拡充や医療提供体制の整備のため、引き続き行政との協働に取り組むこととしている。

項目 内容
集合契約による検査体制の拡充 9月10日付で福岡市と本会で登録医療機関で保険適用によるPCR検査および抗原検査を実施可能とする集合契約を締結した。
それまでは各医療機関でのPCR検査等実施には、行政と各医療機関で個別契約の締結が必要であったが、集合契約により医師会で一括して登録医療機関を取りまとめることで、地域の医療機関におけるPCR検査等がより受けやすくなる体制になる。
現在、9月末を目途に登録希望の医療機関を取りまとめているところである。
「自宅療養」体制構築検討 現行、福岡県では病状により「入院」「宿泊療養」を原則としており、厚労省の「療養状況等及び入院患者受入病床数等に関する調査」によれば、8月19日時点で入院の病床使用率63%、宿泊の居室使用率22%であった。
今後、次の感染者増の波が起きた場合に入院施設や宿泊施設の逼迫が想定されるが、本会では市内のかかりつけ医が関わることにより軽症・無症状の方が安心して「自宅療養」ができる体制の構築を行政と連携して検討している。

●情報発信と報道機関との連携

○「定例記者会見」
 福岡市医師会では、活動内容や医療に関する最新情報を発信し地域の公衆衛生向上を図ることなどを目的とした「定例記者会見」を実施した。
 初回の会見を9月2日に開催し、新型コロナウイルス対策を中心に“福岡市医師会診療所”、“対策委員会等設置”、“感染症指定医療機関の実際”などの報告を行った。
 本会の平田泰彦会長は「コロナ禍で市民が社会的パニックを起こさないよう的確な情報発信を行い、地域医師会に求められる役割を果たしていきたい」と述べた。
 会見には多数の報道機関に参加頂き、今後も報道機関と連携を図り、情報共有と適切で正しい内容が市民に伝わるよう、2ヶ月毎の定期的な開催を予定している。

※URL:https://www.city.fukuoka.med.or.jp/blog/category/press-release/

●インフルエンザと新型コロナウイルス 同時流行への警戒

○同時流行への備え
 目前に迫る今冬の課題はインフルエンザと新型コロナウイルスの同時流行で、「季節性インフルエンザ」と「新型コロナウイルス感染症」は初期症状が似ていることからも臨床的に鑑別することは困難である。
 厚生労働省では、地域の実情に応じて、多くの医療機関で発熱患者等の相談・診療・検査可能な体制の整備について検討している。
 身近なかかりつけ医では発熱患者に対応し、感染症指定医療機関などで重症患者の入院治療に専念するよう役割分担が必要としている。
 地域の診療所では両疾患に対応した診療体制の整備が必要で、感染防止対策として「鼻かみ液」や「鼻前庭拭い液」等といった検体採取方法の導入も一つの手段である。

○インフルエンザ予防接種の重要性
 インフルエンザは、ワクチン接種により発症を抑え、重症化を防げる疾患であることから、今季の予防接種の重要性は例年以上に高い。
 全国の自治体では予防接種費用の助成対象を広げる動きが進んでおり、福岡市では従来の定期接種の高齢者に加え、生後6ヶ月から18歳の子どもに助成対象を広げ、原則厚生労働省の接触確認アプリ「COCOA」導入者に予防接種費用を助成する。

○日本医師会発行「みんなで安心マーク」
 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、慢性疾患や認知症等の患者が感染リスクを恐れ、医療機関への受診を控える現状がある。「受診控え」が続けば、病気の早期発見、早期予防に支障を来し、国民の健康に深刻な影響を与えることが危惧される。
 日本医師会では、患者が安心して来院できるよう、新型コロナウイルス感染防止対策を徹底している医療機関に『みんなで安心マーク』を発行している。現時点で全国1万3,430件(福岡県内940件)となっている。(9月25日時点)
 日本医師会の中川俊男会長は「国民の皆さんには医療機関では徹底した感染防止対策を実践していることを理解頂き、健康に不安がある際には、無理な我慢をせず、かかりつけ医に相談して欲しい」と呼び掛けている。

医療情報室の目

正しく恐れ、賢く行動する姿勢

 玉石混淆の情報があふれる現代社会の中、正確な情報を見極め、正しい行動に繋げる意識を持つことが必要である。今回本会で開始した定例記者会見では、新型コロナウイルスに関する情報を中心に取り上げたが、多数の報道機関に参加頂いたことで多くの市民に本会からの情報が伝わり、一人一人の日常行動が地域における感染拡大防止や各種疾病悪化予防・早期発見に繋がることを切に願いたい。
 会見内容については上記の本会ホームページに詳細を掲載しているが、「受診控え」により市内の基幹病院において1ヶ月に1億円以上の赤字を出していることや小児科や耳鼻科といった地域の診療所でも受診率がそれぞれ3割以上減少しているなど経営面に与えた影響を報告した。
 更に加えて、退院患者への偏見のみならず、医療従事者やその家族に対する偏見や差別により職員の退職が増えている実態についても伝えており、そのことが引いては、今後の地域における医療提供体制の縮小等、多大な影響を及ぼす可能性がある。感染者数や発生場所等は日々各種メディアを通じて随時報道されているが、医療機関が感染対策を徹底していること、「受診控え」は病状の悪化や早期発見の遅れに繋がる危険性があることなど、新型コロナウイルスを「正しく恐れ、賢く行動する」心構えをもって市民が日常生活を過ごすことの重要性も報道して頂きたい。

地域社会と医療現場の混乱を避けるために

 今冬は臨床的に鑑別困難なインフルエンザや新型コロナウイルスによる発熱患者がかかりつけ医を受診することで起こる混乱を想定した対策や準備が必要である。
 患者が相談先や受診先に迷わず、一つの医療機関や相談窓口に殺到することがないよう、医療提供体制の構築は無論、医師を始め各医療機関のスタッフが新型コロナウイルスに感染しない為の指針や感染した際のサポートなど医療従事者を守るための手段や方法を示すことが我々医師会に与えられた責務である。感染状況が落ち着いている今の状態を次の感染増の波に備えた「準備期間」と捉え、地域社会と医療現場の混乱を避けるため、抜かりない対策が求められる。引き続き本会で対策を進め、都度、情報発信をしていきたい。
 新型コロナウイルス感染症の特徴が大分明らかになりつつあるが、有効性が確認されたワクチンや治療薬はまだ確立されていないため、このウイルスへの感染を防ぐには今まで続けてきた「三密」を避け、手洗い・うがい等、基本的な感染症対策を続けていくことが肝要である。


編集
福岡市医師会:担当理事 立元 貴(情報企画担当)・牟田浩実(広報担当)・江口 徹(地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)