医療情報室レポート No.271 特集:医療機関における人材確保の現状と対策

2025年1月31日発行
福岡市医師会医療情報室
TEL852-1505・FAX852-1510

特集:医療機関における人材確保の現状と対策

 我が国の総人口は2005年以降、長期的に減少が続いており、働き手の中心となる生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8,716万人をピークに減少に転じ、2050年には5,275万人になると見込まれている。
 現在、超高齢社会を支える医療・介護業界においては多くの職種で人手不足が常態化しており、医療機関では可及的な人員補充のために民間の人材紹介業者に頼らざるを得ない状況にあり、地域の医療提供体制存続に関わる大きな問題となっている。
 本会では会員医療機関が抱える医療従事者の人手不足、業者に支払う高額な報酬や早期退職等のトラブル解消を目的に、福岡市内に事業所を構える企業4社で共創プロジェクトを立ち上げ、令和6年9月より本会監修の求人マッチングプラットフォーム「for-us」(フォーアス)の運用を開始した。
 今回は、人材確保の現状や求人方法の比較、福岡市医師会の取組みについて特集する。

●人材確保の現状

○会員医療機関185件が「不足」と回答
 医療現場における医療従事者の確保状況について、令和6年3月の福岡市医師会調査では回答のあった429件(回答率32.8%)のうち、44%(185件)の医療機関が「不足」と回答しており、不足の業種は多い順から「看護師(94件)」「医療事務(56件)」「看護補助者(19件)」「医師(9件)」であった。
 ハローワークに求人を出しても応募がほとんど無い人材紹介業者に頼ると手数料が高額といった意見が多く寄せられ、退職などによる人材確保に多くの医療機関で苦慮している現状がある。

※詳細は福岡市医師会 定例記者会見(R6.4.3)資料を参照
( https://www.city.fukuoka.med.or.jp/blog/6908/ )

●求人方法の比較

○様々な方法の組合せが必要
 主な求人方法としてはハローワーク人材紹介等の職業紹介業者などがあり、特徴や留意点は以下のとおりである。
 近年、求職者はスマートフォンを利用して求人情報を検索することが多く、デジタル技術が急速に進む現代社会において求人方法は多様化している。特に若年層では求人の情報収集や企業研究にSNSを活用していることもあり、医療機関には効果的な求人のため、様々な方法を組み合わせた募集活動が求められている。

<求人方法の比較>

求人方法 特徴 留意点
公共職業安定所(ハローワーク)
  • 厚生労働省運営の行政機関
  • 無料で利用可能
  • 求職者の質が多様
  • 応募が少なく、採用まで時間を要する
人材紹介等の職業紹介業者
  • 民営の事業者が求人者と求職者を結びつけるサービスを提供
  • 就職が決まった場合、求人者から職業紹介業者に手数料を支払う
  • 紹介手数料が高額で負担
  • 採用者の思わぬ早期離職等がある
自院のホームページ等
  • 医療機関の特色や職場環境をより詳細に伝えることが可能
  • 求人方法の多様化により、求職者が該当のホームページに辿り着かない可能性がある

●福岡市医師会の取組み

有料職業紹介事業者の利用に関するリスクマネジメント研修会
 有料職業紹介事業者の利用は、高額な紹介手数料の請求採用者の思わぬ早期離職人材のミスマッチなど、医療現場で様々なトラブルが発生している。
 本会では業者利用時の留意点等を解説する会内研修会を開催、具体的な判例や、厚労省が一定基準(手数料公表や6か月以内の返戻金制度を設ける等)を満した業者を認定する「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者認定制度」が紹介された。

○【福岡市】と【医療】に特化した新しい求人マッチングプラットフォーム
 本会が従前よりホームページ内に運用してきた「求人情報登録システム」は求職者からの応募を待つ一方向のサービスであった。
 医療機関と求職者を希望条件により双方向で結びつけるサービスを実現するため、本会監修のもと、求人マッチングプラットフォーム「for-us」を新たに開発し、令和6年9月30日より運用を開始した。
 「for-us」は、あらゆる医療職種が登録でき、医療機関と求職者間のマッチングが成立すれば直接メッセージ交換が可能となるため、希望条件の食い違いや疑問を解消した採用に繋げることができる。民間求人サイトにありがちな営業電話やメール等がなく、煩わしさから解放されることも魅力だ。利用料については、求職者は完全無料、医療機関は採用を確定するまでは無料、採用確定時の仲介手数料も民間に比べて非常に安価であり、福岡市医師会監修のため安心して利用できるシステムとなっている。
 当レポート発行日現在、求人情報掲載数は301件、求職者の累計登録は208名、マッチング(求人への応募)は44件、面接を経て採用に至った実績は5件である。

「for-us」サイト( https://for-us.co.jp

●各医師会の取組み

 日本医師会は、医療人材の確保に向けて独自の取組みを行う地域医師会の活動を全国の医師会と共有することを目的としたシンポジウム「医師会の創”医”工夫~医療人材確保に向けて~」を令和7年4月4日に開催する。
 全国から4つの地域医師会が独自の取組みを紹介予定で、福岡市医師会は求人マッチングプラットフォーム「for-us」について講演を行う。

  <日本医師会 シンポジウム「医師会の創”医”工夫~医療人材確保に向けて~」>

 日 程 令和7年4月4日(金) ※開催方式:Web会議
 内 容 ① 川崎市医師会   LINEを使った独自のマッチングサービス
     ② 名古屋市医師会  医療系求人サイト「名古屋 de 医療のおしごと」の運営
     ③ 神戸市医師会   医療従事者専用求人サイトの運営
     ④ 福岡市医師会   求人マッチングプラットフォーム「for-us」の運営

医療情報室の目

★福岡市医師会「for-us」をご利用ください

 内閣府の月例経済報告(令和6年1月)によれば、ハローワークを経由して就職した人の割合は2013年の26.7%から2023年には15.1%まで低下しており、若年層のハローワーク利用減少、民間職業紹介サイトへの登録や企業と直接マッチングを通じた就職の増加が指摘されている。さらに数時間単位で働く1回限りのアルバイトである「スポットワーク」の利用も増加傾向で、労働市場における需給のマッチングはデジタル技術の進展により構造的な変化が生じており、事業者側は多種多様な求人方法に対応しなければ、人材を確保できない状況にある。
 医療機関で急な退職などにより欠員が生じた際、できる限り早い人員補充のためには民間の職業紹介事業者の利用を余儀なくされているが、年収の平均30~40%とも言われる「紹介手数料」が大きな負担となり、診療報酬により一律の公定価格で運営する医療機関の収益を圧迫する大きな要因となっている。
 医療従事者が離職しないための働きやすい職場環境や働き方改革に取組むことも医療機関に求められる重要な要素だが、地域の重要な社会基盤である医療提供体制を維持するには人材の安定的な確保が欠かせず、物価高騰や他業種の賃上げにより医療・介護業界の経営等が非常に厳しく、深刻な人材不足に直面している中、各地域医師会が創意工夫をして人材確保対策に取り組んでいる。
 福岡市医師会では医療機関と求職者を希望条件で結びつける求人マッチングプラットフォーム「for-us」の運用を昨年9月より開始した。幅広い専門職種を一つのサイトに掲載でき、医療機関と求職者は複数のサービスを利用する手間が省ける。また、マッチングシステムにより双方が気になる場合は直接メッセージのやり取りが可能で、ミスマッチを減らして定着率の向上や離職者を防ぐことが可能である。求職者の利用料は完全無料、医療機関が支払う「紹介手数料」は民間業者と比べて安価に設定しており、多くの方の利便性を目指し、サービスを構築している。
 福岡市内の医療機関で働くことに興味がある方はまずは会員登録をしていただき、「for-us」の積極的な活用をお願いしたい。また、本会会員医療機関における人材確保に是非、ご活用いただきたい。

編集
福岡市医師会:担当理事 江口 徹(情報企画・広報・地域医療担当)
※ご質問やお知りになりたい情報(テーマ)がありましたら医療情報室までご連絡ください。

(事務局担当 情報企画課 上杉)